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元野球部の柔道二段…トランスジェンダーの“新人女子レスラー”エチカ・ミヤビとは何者か?「プロレスはどんな人間もウェルカム」
posted2022/10/12 17:01
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
9月14日、新興プロレス団体PPPの新宿FACE大会で、団体生え抜きの女子レスラーであるエチカ・ミヤビがデビューした。
2001年3月25日生まれの21歳。178センチの長身に加え中学、高校では野球部。130キロ台の速球を投げていたという。その後、柔道を始め二段を取得。といって、単に“スポーツのバックボーンがある有望新人”というだけではなかった。エチカはトランスジェンダーの女子プロレスラーなのだ。野球も柔道も“男子”としての経験だった。
「小さい頃から、買い物してて親に“仮面ライダーのベルトだよ”って言われても興味を示さない子でした。それよりディズニープリンセスのほうが好きで。“なんで女の子の服を着れないんだろう”って思ってましたね」
野球に柔道「“男っぽいことをやろう”って」
小学校に入ると、そんな自分が変なのではないかと思うようになった。少なくとも、周りには隠しておいたほうがいいだろうと。“普通”ではない(と自分たちで判断した)ことに子供は敏感だし、容赦もない。
「それからずっと、男性として生きようと思ってました。男として就職して、結婚して、子供を作る人生を送ろうと。男として生まれた以上、そのほうが楽だと思って。
中学から野球をやって高1で指導者と合わなくてやめちゃったんですけど、そこから町道場で柔道。もともとスポーツ好きなのもあるんですけど“男っぽいことをやろう”っていう意識も強かったです」
高校卒業後は大学に進学する。2年生までは“男子学生”として過ごした。その時期にコロナ禍がやってくる。3年生になると、授業のほとんどがリモートになった。家から出る時間が激減し、かわりに1人で考える時間が多くなった。
「自分の性別についてとか、これまで周りに隠してきたこと、本当は何がしたいのか。言葉にしきれないくらい考えました。男として生きようと頑張ってきたけど、そこで頑張っても仕方ないんじゃないかって思うようにもなって」
考え抜いて、自分が生きたいように生きることにした。髪を伸ばし、スカートをはいた。
「大学は休学しました。手術のためにお金もためたかったので、ニューハーフの飲み屋さんで働くようになって」
女性の姿で実家に帰ったら「おばあちゃんにはイトコのおねえちゃんに間違えれました(笑)」。それでもみんなすぐに慣れたそうだ。「特に母は看護師なので、受け入れるのも早かったですね」。