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[ハッシーの今]橋本崇載「根性なしへの挽歌」
posted2022/10/08 07:01
text by
大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph by
Chihiro Kihara
遠目にも彼だとすぐにわかった。
金髪とワインレッドのダブルのスーツが目に眩しい。平日の昼下がりの街中からは明らかに浮いた格好をした男は、顔を合わせると神妙さと照れが入り混じったような表情で、深々と頭を下げた。
「ご迷惑とご心配をおかけして、本当に申し訳ありませんでした」
39歳の橋本崇載は、かつて順位戦A級に在籍した強豪棋士だった。派手なファッションや率直な言動で人気を博していたが、2021年4月に現役を退く。あまりに若すぎる引退の理由は、家庭内不和に端を発するトラブルだった。なにも棋士を辞めなくてもと思ったが、橋本は深く傷つき、激しく憤っていた。将棋は精根を尽くして眼前の相手を打ち負かすゲームである。それを戦うには、橋本はあまりに疲弊し、消耗しきっていた。
SNSでの発信も次第に途切れ、消息不明の状態がしばらく続いていたが、今年7月に復活を宣言。8月からはYouTubeで「TAKANORIチャンネル」をキックオフした。メインチャンネルでは自分の好きなグルメ情報やお笑い、サブチャンネルでは将棋講座を主に発信している。
私は将棋記者を始めた2006年から、橋本とは様々な仕事を共にした。橋本の対局を観戦したことは何度もあるし、講座の執筆を引き受けたこともある。競馬や競艇に出かけたし、酒席も共にした。YouTubeで笑顔の橋本を見て、まずは安心したが、同時に別の感情も膨らんでいった。橋本はいま何を考え、これから何をするつもりなのか。そして自ら幕を引いた20年間の棋士生活をどう捉えているのか――。