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憧れの日本選手権で「得たものはツイッターの『いいね』ぐらい…」筑波大大学院→TikTokで大バズリ、三津家貴也が語る中距離ランナーの現実
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byYuki Suenaga
posted2022/10/22 11:01
ランニングをメインとした動画投稿を行い、インフルエンサーとして活躍する三津家貴也さん。本人にTikTokで話題になるまでの話を聞いた
憧れの日本選手権の舞台に立って感じたのは…
会社に入社し、研究をつづけ、練習時間を作っていくことでタイムも上がり、社会人1年目で陸上選手が憧れる日本選手権の舞台に立った。出場した800mは、残念ながら予選落ちという結果に終わった。レース後、三津家さんが得たのは達成感でも充実感でもなかった。この時に感じたものが、三津家さんの“今後”を決めることになる。
「陸上を始めて10年、社会人1年目で、高校時代から夢見ていた日本選手権に出ることができました。でも、レースで予選落ちして、そこで得たものってツイッターの『いいね』ぐらいだったんです。この舞台に立つために時間と労力をかけて、交通費、宿泊費などの出費を耐えてきたのに、何も報われない。サッカーや野球は試合に出るとお金がもらえるのに、僕らはお金を払って大会に出ている。それって陸上がビジネスになっていない証拠ですし、それでいいのかって思ったんです」
タイムを上げても社会的に見ればたいしたことじゃない
サッカーなどは試合に出場して勝てば、出場給に加えて勝利ボーナスがもらえる。だが、陸上の大会は、100mやマラソンなど一部の種目で賞金は出るが、基本的にはトラックにお金は落ちていない。実業団ではタイムを出せば、給料が上がるところもあるが、多くはタイムしか持ち帰るものがない。
「日本選手権を走って、自分の走りは出せたかなと思うけど、やり切った感はぜんぜんなくて、こんなもんかって感じでした。じゃあ入賞していたら違ったのかというと、そんなこともなく、陸上を極めたり、タイムを上げても社会的に見ればたいしたことじゃないんですよ。この時、自分の人生をかけてタイムを追い求めることが自分の人生を豊かにすることじゃないということが分かったので、選手としてはもういいかなって吹っ切れたんです。陸上を食べていける競技にするには、多くの人に陸上を知ってもらい、陸上のすそ野を広げていかないといけない。そのために、ここからSNSに力を入れて活動していくようになりました」
職場で倒れ、何もやる気が起きなくなって…
その日以降、三津家さんは会社のYouTubeでデータを活かしたトレーニング効果を伝える動画作りに集中し、配信していった。それに加え、アスリートとして練習をこなし、コーチ業など会社の仕事をこなした。超がつくほどの忙しさだったが、使命感から肉体と精神のリミットを超えて動き続けた。すると、昨年4月、職場で意識を失った。