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一浪して九州大→独立リーグで無双…熊本の24歳左腕が“ドラフト候補”になるまで 元ホークス・馬原監督「こんな有望な人材は日本中探しても少ない」
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKotaro Tajiri
posted2022/09/26 06:02
今年のドラフト候補に挙げられる芦谷汰貴24歳。九州大卒の経歴を持ちながら、なぜNPB入りを目指すのか?
実際、九大野球部時代もある意味で孤独だった。仲間や友人との絆は大切にしながらも、歩調がまるで違う。野球に対する考え方も、費やす時間も、トレーニング量も……。芦谷自身、一体どれほど「なんで?」と訊ねられただろうか。
「僕にはプロ野球選手になるということ以外に人生の目標があって。自分の言動が誰かのキッカケになるような人間でありたいと思っているんです。僕の姿を見て野球を頑張ろうとか、野球が上手な子が勉強も頑張ってみようかなとか。『なんで?』は確かに数え切れないほど言われました。そんな時、周りの目を気にしたり、失敗したらと不安になったりして挑戦しない人が多いと思う。だから、それでも僕がやってみることに意味がある。僕がやって、それを叶えれば世の中の考えも一気に前に進むかもしれない。なので、『なんで?』という声は僕にとって原動力にもなりました。逆にラッキーだな、と思っていたくらいでした」
昨年は指名漏れ→独立リーグへ
そして迎えた2021年度ドラフト会議。当日は自宅で指名を待ったが、名前が呼ばれることはなかった。「思った以上にプロの世界は遠かった」と落胆したが、同時に湧き上がってきた思いもあった。
「それまで注目されていたのは、自分が『国立の九大の野球部』だったから。かといってプロは諦められない。次の年(2022年)は1人のドラフト候補として見てもらえるような投手にならないといけない」
努力不足だった――芦谷自身はそのように反省もした。
ドラフト会議直後に社会人チームから誘いの声はあったが「社会人だとドラフト対象になるまで2年かかる。1年でも早くプロに行くために」と独立リーグに飛び込んだ。トライアウトを受けて合格。投手では約40名が参加し、芦谷が唯一の合格者だった。
それまで文武両道で歩んできた彼にとって、本当の意味で野球漬けの生活はこれが初めて。そして、真の意味でプロを目指す意味を知ったのも初めてだった。