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「え、こんなに…」高校2年生・馬場咲希がとまどった“チャンピオンのオシゴト”とは? ゴルフ界37年ぶり快挙の初々しいウラ話
posted2022/09/15 11:03
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
Yoichi Katsuragawa
さっきまでのキラキラの笑顔はどこへやら……。全米女子アマチュア選手権を制し、日本人として37年ぶりの快挙を遂げた17歳は、椅子に座るなり表情を消した。
右手のペンがピクリとも動かない。
8月のあの日、ヒロインになった馬場咲希は、紛れもない、世界一のアマチュアタイトル獲得の余韻に浸っていたところだった。
ゴルフの試合で毎回誕生する優勝者には多くの“仕事”が課せられる。表彰式で主役になり、記念撮影のフラッシュを浴び続けると、すぐに公式会見がセットされ、テレビカメラの前をたらい回しされて各種インタビューに答える。その間、クラブハウスでスポンサーやコース関係者向けのセレモニーに出席することも少なくない。
サインは会場に足を運んでくれたファンや関係者だけにしているようで、裏では大会スタッフが山積みの真新しいグッズを持って待っている。やはりスポンサーらに配布するための色紙や大会フラッグ、キャップ(帽子)……といった具合。これらに流れ作業でペンを走らせるのがチャンピオンの地味~な儀式である。
このオシゴトに女子高生アマは戸惑った。
「え、こんなに…?」
デスクの上にドンっと置かれたフラッグとポスターは数十枚。思わず絶句し、面喰ったのは、ここまでの量をこなしたことがなかったから。
これまでは「馬場咲希」と漢字で書いていた
今まではサインを求められるたびに「馬場咲希」と漢字で書いていた。すべてに丁寧に記していたら終わるのはいつになることやら……。
大会期間中、お世話になった女性コーディネーターが助け舟を出してくれた。「ローマ字で、短く書いたら?」。それなら、なんとかできそう。下書き用のシートに何回か練習して……。
かくして「SBaba」の即興サインはできあがり、15分ほどして作業はおしまい。たまに「ああ!」と書き間違えてしまったポスターも、いずれ価値が出るかもしれない。
こんな小さなエピソードでも、馬場がいかに短い期間で、そして外連味なくスターダムにのし上がったのかがわかる。