濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「間違いなく伸びます」スターダム異例づくしの新人・天咲光由(20歳)の“魅力”は何なのか? 中野たむも意表を突かれた“まさかの発言”とは
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2022/09/03 11:03
「超新星5番勝負」第2戦で中野たむと対戦した天咲光由。試合後には泣いたり笑ったりと表情が何度も変化した
敗れた試合でも見えた“負けん気”
デビューしたてで異例の注目。だから厳しいことも言われるが、自分はあくまでも正当な形でベルトに挑むのだという自負は崩れなかった。芯の強さや負けん気といった部分で、やはりこの選手は注目されるだけのものを持っている。
とはいえ試合結果という現実は重い。6分31秒でフォール負け。内容としても羽南が攻めている時間が長かった。天咲はロープを使ってのスイングDDTを狙うが、技のかかり方が浅く連続でトライ、セコンドに「落ち着いて!」と声をかけられている。ミスをしてもそこで動きが止まらず、完璧に決まるまでやってみせるあたりも天咲の負けん気だろう。もちろん、ミスがあっては実力差、キャリア差を覆すのは難しいのだが。
フィニッシュはブロックバスターホールド。羽南はふだんバックドロップホールドで勝つことが多く、今回は“最上級の技”での勝利ではなかった。羽南が意識的にそうしたのだ。天咲は自分の一番の技を出す相手ではない、そう判断したのである。
中野たむの容赦ない攻めに「凄く怖かったです」
たむもまた、天咲に厳しく当たった。会見では、試合中に基本の後ろ受身を失敗していたことを指摘。「ちゃんと練習してる?」と責め立てた。これはかなり危険なコメントだった。受け取り方によっては「スターダムはきちんと受身が取れない選手をリングに上げているのか」という話になるし、それでなくてもSNSやニュースサイトのコメント欄には受身をはじめとした選手の技術をくさしたがる手合いが多い。たむの言葉は、そういうネットユーザーに恰好の“エサ”を与えるようなものだった。
普段のたむなら、絶対に言わなかっただろう。ほとんど“意地悪”のような言葉は、相手が天咲だったからだ。たむもまた“期待の裏返しとしてのプレッシャー”を天咲にかけたのだ。
リングの上でも容赦がなかった。たとえば天咲に攻めさせるだけ攻めさせ、力を出し切らせたところで反撃し、とどめを刺すというやり方もある。たむの実力、懐の深さならそれも可能だったはずだ。しかし彼女はそうせず、序盤のグラウンドから天咲を圧倒した。
天咲も得意技を一通り出したのだが、たむの攻撃に耐えながらなんとか一矢、という感じだった。試合の途中からは、泣きながらたむに食い下がった。「いつも周りから“緊張してないよね?”って言われるんです」という天咲には珍しいことだ。
「打撃の痛さだったり、何か(技を)やる前にニヤッとするのが凄く怖かったです」
涙が止まらなかった天咲
それでも、いま自分ができることはやり切ることができたと天咲。それは得意技をすべて出してもたむを追い込むことができなかったということでもあった。それが彼女の現状なのだ。