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武豊が語る“53歳ダービー神騎乗→凱旋門賞”「ノリちゃん(横山典弘)にホメられたのが…」「ドウデュースはすでにそういう存在」
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/10/01 11:01
53歳にして通算6度目となる日本ダービー制覇を達成した武豊。ドウデュースとの凱旋門賞に期待が集まる
「前のペースがそれなりに速くなって縦長の隊列になりそうなのが見えていたし、あとで先行馬がバテて下がってくるラインにもいない。かと言って過度に外を回されているわけでもなかった。いい並び、いいペース、外から絡んでこられない場所にいて、道中は単騎で走らせてもらえる時間もあった。どんどんどんどん勝ちが近づいてきている実感がありました。
あと、レース後にノリちゃん(横山典弘騎手、マテンロウオリオン騎乗)に褒められたのもうれしかったですね。ずっとボクの後ろにいてチャンスを窺っているのはわかっていましたが、『いやー、相変わらず動かねえな』って。『慌てないよな、お前は』と言ってくれたのは最高の褒め言葉でした。若いジョッキーに向かって、『これ、普通のレースじゃないからな。ダービーでこれができるんだからな』と言ってくれたのも、さすが、わかってくれる先輩の言葉でした」
松島オーナーから「ありがとう、武ちゃん」
――抜け出してからステッキを2回、持ち替えていました。
「前で粘っていた田辺(裕信騎手、アスクビクターモア騎乗)がちょっと外に、ボクのが右ステッキに反応して少し内に入ろうとしたので、左に持ち替えて使いました。危ないとかヒヤッとしたとかは全然なくて、馬場も外の方が良かったので自然な動きです。最後に右に持ち替えていますが、そこは無意識ですね。きちっとまっすぐ走らせようとしているんだなと、ビデオを見直して自分でそう思ったほどですから」
6万人のユタカコールの祝福を浴び、馬場での華やかな表彰式も終えて、地下の検量室前に戻ってきた武が、筆者の前を通過するときに、声をひそめて「よかった……」と言った。
「もちろん本音でした。ボク自身、ダービーで有力馬に乗るのは正直キズナ以来だったでしょう? 久々にダービー勝つかもな、このチャンスを逃したくないなって思っていましたからね。2週前ぐらいから取材もたくさん来て、変に逃げたりせず、誇張もせず対応させてもらいました。ダービー週だけは静かに過ごして、周囲の友人たちもそっとしてくれているのがわかるわけです。期待に応えられて本当によかったなという気持ちにもなるじゃないですか。
松島(正昭)オーナーは昔からの友人で、馬券で苦労している話を聞かされたときに、それなら馬主になった方がいいですよとボクが薦めてそうなった流れ。だけどボクが想像した何倍ものめり込んで、すごい金額を出資し続けたので、俺、マズいことを言っちゃったのかなって、本当にそう思っていましたからね。『ありがとう、武ちゃん。馬主になってなかったら今日はないもんな』って言ってもらって、そこも本当に肩の荷が下りた気持ちになりました」
60代でもっていう期待は…その前に来年、再来年も(笑)
――キズナで勝った'13年のダービーを振り返っていただいたときに「あれ勝ってなかったら、いまジョッキーをやってたかどうかわからない」という話をしていましたが、今回もそれに近い感情でしょうか?