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なんと42万円! 競泳プールの最高級レーンロープが持つ“驚くべき機能”とは? 元オリンピアンが証言する「優れたロープの条件」
posted2022/09/04 06:00
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
KYODO
私たちが普段見ているものには、意外な機能が隠されていたりする。プールに張られたカラフルなレーンロープもそう。国際大会や全日本などで用いられるロープには、レーン分けに加えてもうひとつの重要な役割がある。
それは波消し。というのも1000分の1秒を争う競泳では、波が記録を左右するからだ。
かつて50m自由形、50m・100mバタフライの日本記録を保持し、2008年北京五輪にも出場した岸田真幸さんが競技者の感覚を語る。
「泳速がもっとも出る100m自由形になると、ものすごく波が立ちます。その衝撃をもっとも受けるのが、ターン後に浮上したとき。自分の立てた波に当たるような感覚です。でも優れたロープは、その波を消しながら左右に流してくれるんです」
トップスイマーでもロープの機能まで意識する選手は少ないが、岸田さんはその数少ないひとりだった。というのも世界有数の波消しロープのメーカー、ツカサドルフィン株式会社からサポートを受け、現在は同社の営業担当を務めているからだ。
ついに誕生した「42万円」のロープ
東京五輪以前、日本競泳界の中心的施設だった東京辰巳国際水泳場は記録が出る高速プールとして有名だったが、そこに張られていたTF-15050Aも同社のロープ。連結した水車型のフロートが回転して波を吸収する機能が評判となり、ロングセラーとなった。
だが機能向上に貪欲なツカサドルフィンはTFには満足せず、5年前、Z型フロートが連なる新製品TFR-150N50(50mロープ1本で税抜き42万円)を完成させる。TFが持つ高精度な波消し機能を維持するTFRには、ふたつの新しい特徴があるという。
同社営業部の橋本順さんが解説する。
「低発泡フロートの採用と植物由来プラスチックの導入です。以前のTFは完全樹脂のため割れてしまうことがありましたが、低発泡にしたことで耐久性が増しました。また従来の石油原料のプラスチックから、サトウキビを原料とした植物由来のバイオマスプラスチックに変えたことで、大気中のCO2を増加させず、石油資源の節約にもつながる、環境にやさしい製品に生まれ変わったのです」
選手の背中を陰ながら後押しするだけでなく、環境にも配慮したレーンロープTFR。記録が出てもロープが脚光を浴びることはないが、「それでも」と橋本さんは言う。
「このTFRで新記録が出てほしい、そんな思いで私たちは競技を見守っているんです」