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「最初聞いたときは、ちんぷんかんぷんで…」イチロー指導の智辯和歌山が実現した”奇跡の走塁”《甲子園優勝校の特別秘話》 

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石田雄太

石田雄太Yuta Ishida

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photograph byNaoya Sanuki

posted2022/08/12 17:00

「最初聞いたときは、ちんぷんかんぷんで…」イチロー指導の智辯和歌山が実現した”奇跡の走塁”《甲子園優勝校の特別秘話》<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

2020年12月2日から3日間、イチローは智辯和歌山の野球部を指導した

「ツーアウトで、一、三塁か満塁。あるいは一、二塁でも高校野球だったらチャンスがあるかもしれない。そのケースでショートの深いところにゴロが飛ぶ。そうしたらショートはセカンドに送球するよね。一塁ランナーはスライディングして二塁でアウト。そこでチェンジなんだけど、もし一塁ランナーが二塁ベースを駆け抜けて、タイミングがセーフだったらどうなるか……駆け抜けたあとにオーバーランするわけだから、挟まれてアウトになるよね。でも二塁を踏んだ瞬間はセーフだから、まだチェンジになっていない。挟まれている間に三塁ランナーがホームを踏んでいれば、そこで1点が入る。このほうがよくない? 二塁へスライディングしてスピードを落とすよりも、全力でベースを駆け抜けるほうが早いでしょ。1点に対する意識をどれだけ持てているか。そこは大きく野球を変える。難しい相手はその1点で決まる可能性もあるわけで、そういう野球ができたらもう一個上にいけるよ。どうやって点を取るのかが高校野球のおもしろいところだからね」

 その約8カ月後――。

 イチローがイメージしていた“幻のプレー”は陽の目を見た。2021年7月27日、夏の甲子園出場を懸けた和歌山大会の決勝。市和歌山と智辯和歌山の一戦は6回裏、智辯和歌山が先制して均衡を破る。7回表、すかさず市和歌山が追いつくと、その裏、智辯和歌山が2点を勝ち越した。試合が動き始めた終盤、1点の重みは増すばかりの展開だ。8回表をゼロに抑えて3-1で迎えた8回裏。簡単にツーアウトを取られた智辯和歌山だったが、9番の大西がフォアボールで出塁した。大西は言う。

「簡単にツーアウトを取られて、僕が打席へ入ろうとしたら、大仲が伝令に来たんです。僕の前の8番バッターがピッチャーだったので、少しでも休ませるための時間稼ぎと、あとは簡単に初球を打ってアウトになるな、初球はセーフティバントしてファウルを狙えと……その意識で粘っていたら、結果、フォアボールを選べました」

 続く1番の宮坂が打った一塁前へのゴロがファーストのミスを呼び、智辯和歌山がツーアウト一、二塁のチャンスをつかむ。

 一塁ランナーが主将の宮坂。

 二塁ランナーは俊足の大西。

 左バッターボックスに元気印の大仲。

「打った瞬間、くそーって感じでした」

 マウンドにはのちにベイスターズからドラフト1位で指名される小園健太、マスクをかぶるのはマリーンズのドラフト1位、松川虎生という、超高校級バッテリーが相手だ。その初球、松川が内角に身を寄せる。しかし小園のストレートはやや外寄り、ベルトあたりの高さに投じられた。大仲が初球から打って出る。大仲が振り返った。

【次ページ】 「打った瞬間、くそーって感じでした」

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