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フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
「ユヅと二人で大笑いして…」羽生結弦の振付師が語る、プロ転向後の“無限の可能性”「スケート界は彼のようなリーダーを必要としている」
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2022/08/10 11:05
平昌五輪フリーの「SEIMEI」。シェイリーン・ボーン氏にとっても、印象深いプログラムだという
今明かす、「SEIMEI」に羽生が込めた思い
「ユヅはあのプログラムの中で、全ての人間の中に存在している女性的な部分と男性的な部分、繊細さと強さという誰もが持っている二面性を表現したい、と説明しました。またスローな部分では、映画のシーンの中のちょっと幻想的な部分を表現したかった。そして私は最後のステップの部分で、ユヅが彼自身のエネルギーを使ってそれまで周りを覆っていた暗い雲を祓う、というイメージを抱いて振り付けました。
実際に彼があのプログラムを演じるのを見るたびに、彼が暗い雲をきれいに祓うのを感じたし、彼自身も感じていたと思う。それは感動的なことでした。見ているお客さんの気持ちも引き上げられて、彼のエネルギーを受け取った人は多かったと思います」
このフリーは元々、2015/2016年のプログラムとして振り付けられた。
「でもこの作品を仕上げた時に、『ちょっとタイミングが早くて残念。あなたがどう感じているかわからないけれど、このプログラムをいずれ再使用する可能性も頭の中に入れておいて。私はこの作品はオリンピックで使うべきだと思うの』と彼に伝えたんです」
ボーン氏の言葉通り、羽生はこの「SEIMEI」を2シーズン後に復活させて、平昌オリンピックで二度目の金メダルを手にした。
「ユヅは無限の可能性を持っています」
プロスケーターの先輩として、羽生にどのようなものを期待しているだろうか?
「私自身は、プロに転向してからすぐにパートナーが引退したために、一人になってしまったのです。それでも努力して、ソロスケーターとしてのプロのキャリアを築き上げました」
ボーン氏はアイスダンサーとして2003年3月に世界選手権で優勝したのを最後に、競技活動から引退。同年の10月に、パートナーだったヴィクター・クラーツとのパートナーシップを解散した。その後、振付師として活躍する傍ら、一人でショースケーターとしても活動し続けてきた。
「元々私にとっては、プロとして活動することが最終目標でした。試合に出ていたのは、できるだけ大きな舞台で自分の滑りを見せることができるように、可能な限りベストな結果を残したいと思っていたためです。その意味では、ユヅは無限の可能性を持っています。彼にはプロとして長い活動をしていける基盤があるし、とても想像力豊かなスケーターなので、何か大きなスケールのこともできると思います」