濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
スターライト・キッドが泣いていた「私の見せどころももっていかれて…」スターダム人気レスラーが隠せなかった“コンプレックス”の正体
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2022/07/30 11:03
白いベルト戦にて、上谷沙弥の前に敗れたスターライト・キッド。覆面越しにも分かるほどの号泣だった
足を引きずってでも…上谷の執念
10代前半でデビュー、常に「まだ若いから」と言われてきたキッドが身につけた大人のプロレス、トップレスラーのプロレスがそこにあった。体は小さいが動きは多彩。タイトルマッチにふさわしい激しさ、重厚感もあった。だが上谷は、挑戦者の渾身の技の数々をクリアした上で、足を引きずりながらコーナーに登り、そして飛んだ。
最後は「執念でした」という不死鳥の舞い=フェニックス・スプラッシュ。脚にダメージがあるから別の技で、とはならなかった。
「(キッドに)もう飛べないと言われて、自分でも考えたんです。フェニックス・スプラッシュは失敗するとダメージも大きい。ケガの多い技なので、自分もいつまで使えるんだろう、いつまで“不死鳥”でいられるんだろうって。名前は出さないですけど、私が憧れている選手もこの技(の自爆)でケガをして欠場してます。
ということは、国内のリングに上がってる選手で今、フェニックスの使い手は私だけなのかなって。だからこそ飛び続けたいんです。アドレナリンに頼りまくって飛んだので、試合が終わってからヒザの痛みがきましたけど(苦笑)」
涙が止まらないキッド「今の私でも獲れないのか」
キッドとの試合は7度目の防衛戦だった。前王者である中野たむ、その前にベルトを巻いていたジュリアという看板選手の防衛回数を超える数字だというのも重要だった。
かつて「未来のスターダム」を名乗った上谷は白いベルトのチャンピオンとして「私が今のスターダムです」と胸を張る。キャリア3年弱でここまできたのだから驚異的と言うしかない。7月24日の名古屋大会では防衛回数を8に伸ばした。
一方、敗れたキッドは試合直後から涙が止まらない。セコンドに肩を担がれて引き上げると、インタビュースペースに倒れ込んだ。
「3度目の挑戦でも勝てない! 2020年の5★STAR、21年シンデレラトーナメントでも上谷に負けて。ハイフライヤー、私の見せどころももっていかれて。ずっと上谷に邪魔されてきた! アイツからベルト奪って(過去を)全部捨ててやろうと思ったのに……。7年かけてここまできたのに。今の私でも獲れないのか。今の私に何が足りないんだ! なんでずっと上谷に勝てないんだ!」
ほとんど「慟哭」と言ってよかった。“闇堕ち”後は常に強気、対戦相手を挑発し、スターダム戦線を動かしてきたキッドだからこそ、その涙にはインパクトがあった。“大江戸隊のキッド”としては、これまで見たことがない姿だ。