松坂が二塁へ投げたボールが…

　2人が感じたものは、回を追うごとに色濃くなっていく。そして、甲子園のスコアボード。安打を表す「H」の欄がいつまでも「0」のままであることが、徐々に京都成章ベンチにのしかかっていた。

《みんな口にはしませんでしたけど、ノーヒットというのはわかっていました》

　怪物の球威とテンポがどんどん上がっていく。初回、澤井の手に残った「やれる」という感触は次第に薄れていった。

　7回。2死から振り逃げでランナーを出した。次打者の打球は難しいバウンドで二遊間へ飛んだが、これを二塁手・松本勉がまるで舞うように、あっさりとさばいた。

　8回。先頭打者が四球で出た。得点圏に進めようと、次打者が勢いを殺したバントを転がしたのだが、松坂は猛然とマウンドから駆け下りてくると、二塁へ矢を放った。

《あれは今でも目に焼き付いているんですけど、松坂が二塁へ投げたボールが、ブワアーッとホップしたんです。ことごとく小さなチャンスの芽を消されていって、その1つ1つがノーヒットノーランのきっかけになっていくような感じがしたんです。戦っているわけですから、僕らも『松坂、すげえ』と見ていたわけじゃないですし、必死で何とかしようとしてたんですけど》

あくまで横浜高校というチームの中に松坂がいる

　澤井は、もがく手も、あがく足も、何か大きな結末に向かうための1つの要素になっていくような感覚にとらわれていた。

　そういう試合を見つめながら、思った。横浜の、松坂の強さとは何だろうか。

©Hideki Sugiyama

　そして、思い当たるのだ。

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