濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「なんで倒れへんねん…」”武尊に勝った男”京谷祐希が語るあの一戦とTHE MATCH「そろそろ、天心くんに呪いを解いてほしい(笑)」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakao Masaki
posted2022/06/17 11:02
2012年、Krushのリングで武尊と対戦し、プロキャリア唯一の黒星を与えた京谷祐希。ビッグマッチの展望を語ってもらった
相手を圧倒してKOすることもあれば、カウンターを当てることも、技術や試合運びで競り勝つこともある。それが那須川天心の天才性だ。
「またジャンケンでたとえますけど、グーチョキパー全部出せるタイプですね」
武尊が勝つパターンがあるとすれば
武尊が前に出ても、那須川のカウンターが待っている。だがそれでも武尊は前に出るしかないし、そこに勝機があると京谷。那須川と鈴木の2戦目(昨年9月)が、まさにその作戦だった。
「前に出て、相手の攻撃をもらうこともある。でもそれは仕方ない。“100”の攻撃でなければ、ダウンになるようなものじゃなければいいんだと鈴木には言いました」
中間距離で“技術戦”をしたら那須川に勝てる相手はいない。遠い間合いでも、那須川には飛びヒザ蹴りなどの“飛び道具”がある。勝負をするなら接近戦しかないと京谷は見た。
「結果、鈴木は判定で負けたんですけど、ちょっと嬉しい部分もありました。やってきたことは間違いじゃなかったなって」
鈴木は判定3-0で敗れた。ただ決して大差ではなかった。那須川の巧さが目立ったが、逆に言うと爆発的な強さを見せた試合ではなかった。そして京谷は、こう続けた。
「実は、鈴木が理想としてるファイトスタイルは武尊くんなんですよ」
武尊なら、京谷が鈴木に授けた戦法をより高いレベルで実行できる可能性がある。武尊が勝つとすればそのパターンだと京谷は分析してくれた。武尊は那須川にとって相性がいい相手。しかし那須川が一番嫌がる闘いができるのも武尊なのだと。
武尊戦で感じた「なんで倒れへんねん」
那須川戦での鈴木の作戦は、武尊のファイトスタイルに通じるものだ。「打ち合いになったら気持ちの強いほう、前に出ているほうが勝つ」というのが武尊の信念。実際に闘って、京谷は武尊の打たれ強さも感じた。キャリア唯一の負けである京谷戦、武尊はテンカウントを聞いていないし3ノックダウンでのKOも喫していない。
「闘ってて“なんで倒れへんねん”、“俺、パンチないんかな”と思う場面もありましたからね。打たれ強さとかファイティング・スピリットは凄いですよ、武尊くん。去年のレオナ・ペタス戦でも一瞬、腰が落ちたんだけどそこからKOしてる。
結局、僕との試合から負けてないですよね。負けてから“このままじゃいけない”と思ってかなりの努力をしてきたんじゃないかなと。僕の勝手な想像ですけどね。人には見せない努力をめちゃくちゃしてきた選手やと思います、武尊くんは。
天心くんはグーチョキパー全部出せる。武尊くんはグーしかない。でも、今の武尊くんにはグーでパーを突き破ってしまうような強さがあるんですよ」