ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
《2回TKOの圧勝劇》井上尚弥のあまりの強さに“ドネアに感情移入”する観客も… 大橋会長は感嘆「正直、調子はあまり良くなかった」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2022/06/08 12:00
2回、井上尚弥がノニト・ドネアを沈めた瞬間。“モンスター”が戦前の予想を上回るほどの圧倒的な強さを見せつけた
「次は行かない」と宣言した2ラウンドだったが…
井上はスタートで左フックをもらったとき、頭の中でこう考えていた。
「1ラウンド目は絶対に取らないといけないなと思っていて、左フックをもらった瞬間、それ以上のインパクトを残さないと(このラウンドは)取れないと思った。残り10秒(の拍子木)が鳴って、少しだけエンジンをかけた」
ラウンド終了間際、軽くアクセルを踏み込んだ井上はドネアが右を打つタイミングで右を合わせた。コンパクトでシャープな右がドネアのテンプルをとらえる。レジェンドがキャンバスに転がった。さいたまスーパーアリーナが一気に盛り上がり、立ち上がったドネアはラウンド終了のゴングに救われた。
試合再開後すぐにゴングが鳴ったため、ドネアがどれだけダメージを負っているかが分からない。井上はインターバルで父の真吾トレーナーにあえて「次は行かない」と宣言し、慎重に試合を進めようと自分に言い聞かせた。なのに結果的には「行ってしまった」。ドネアが2ラウンドに入ってもダメージを引きずっていたからである。
2回、井上は攻めた。ジャブ、左フック、右ストレート。ドネアは必死にリターンを返し、必殺のカウンターで形勢を逆転しようと渾身のブローを放ってきた。井上がカウンターを警戒しつつ左フックを打ち込むと、ドネアが足をバタつかせて後退。押せ押せのモンスターはワンツーから返しのジャブでドネアの顔面を跳ね上げた。
絶体絶命のドネアはそれでもプライドを失わなかった。何とか立て直そうと左カウンターを狙うが、圧倒的優位に立ったモンスターを止めることはもはや不可能だった。攻め込む井上が再び左フックを決めると、ドネアがロープ際に崩れ落ちる。主審がTKOを宣告し、“ドラマ・イン・サイタマ2”と謳われた試合は幕を閉じた。