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《ノーノー生観戦》前席のカップル、番記者、そして柳田悠岐もザワザワ…ホークス“東浜巨の97球”に福岡が燃えた夜「え、なんかすごい楽しい~」
posted2022/05/13 11:03
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
JIJI PRESS
宮崎発の特急「きりしま」は左側窓際を選ぶのがいい。乗車中の大半を南九州の山深い路線を進むが、終点の鹿児島中央駅が近づくと列車は錦江湾沿いを走る。すると海の向こうに雄大な桜島を望むことができるのだ。
5月10日、せっかく宮崎まで取材に行ったのに、まさかの雨天中止の憂き目に遭った。行きは飛行機であっという間だったが、翌朝の帰りの便が確保できずに列車移動を選んだ。朝9時台の宮崎発で鹿児島中央へ行き、そこから九州新幹線で博多へ北上するという手段だ。約3時間半の長丁場。空路の約5倍の移動時間を要するが、PayPayドームの「移動ゲーム」の試合前練習に間に合わせるにはこれがベストだった。
せめて滅多に乗らない車窓の景色くらいは楽しもう。そう思っていたのに、この日はあいにくの空模様。桜島の山頂はすっぽりと雲に覆われていた。
しかし、「沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり」という慣用句があるように、人生は悪いことばかりが続くわけではない。
へとへとになってたどり着いたPayPayドームで、その夜、まさか球史に残る偉業のピッチングを取材できる幸運に恵まれるとは思いもよらなかった。
序盤から圧巻投球も…記者席「気が早いでしょ」
5月11日、舞台を変えて行われたソフトバンク対西武。ソフトバンクの先発マウンドに上がった東浜巨はたしかに立ち上がりから快調だった。
初回を7球で三者凡退に仕留めたのを皮切りに、毎回少ない球数でポンポンとアウトを重ねていった。どちらかといえば、走者を出しながらでも丁寧な投球で、球数も要しながら抑えていくタイプのピッチャーだと認識している。だけどこの日は、西武打線が早打ちだったというより、東浜の制球が素晴らしかった。しっかりゾーンに投げ込むから、打者はバットを出さざるを得なかった。それでいて直球のキレがあり、シンカーも鋭く落ちるから相手はもうお手上げだ。
4回裏だったか、筆者がグラウンドに目もくれずノートPCに向かって指を動かしまくっているのを見た隣の席の記者に「え、もう準備ですか?気が早いでしょ」と笑われた。そして「大体……」と言葉を継いだ。その先は言わずとも分かっている。そんなことをやり出すと、“予定どおり”に事が進まなくなるのだ。