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[ICHIROを語ろう]ボブ・メルビン「突き詰めるのはワインも同じ」
posted2022/04/16 07:07
text by
ブラッド・レフトンBrad Lefton
photograph by
Getty Images
ジョージ・シスラーの偉大な年間安打数記録を塗り替える一本が二遊間を抜いた瞬間、誰よりも早くベンチを飛び出しイチローを祝福しに一塁へ駆け寄ったのはボブ・メルビン監督だった。今季、アスレチックスを離れてパドレスの新監督に就任した彼は、マリナーズの指揮を執った'03、'04年の共闘をきっかけとして、今もイチローと親密な関係を続けている。
ふたりは野球はもちろん、それ以外でも共感することが多いという。その一つはナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨン種を使った赤ワイン。一方が気に入ったものを推薦すれば、もう一方も楽しむことになる。昔からワインが大好きなメルビンは、引退したイチローがますますワインに詳しくなり、ついには自身を越えたと言う。
「今やイチローは立派なワイン通で、私は彼の弟子のような関係だね。さすがイチローは、なにごとにも中途半端ということがない。何かをやろうと思えば、必ずそのことを突き詰める。最近では、おいしいワインを送ってくれると、それが飲み頃だからデカンタしなくていいか、まだ飲み頃には早いからデカンタして空気に触れさせたほうがいいか、そこまで教えてくれるんだ。ワインの香りを試すなら、まずグラスを回さずに十分香りをかいでみて、それから回し始めるとも教えてもらった。そうすると確かにワインのおいしさがよくわかる。さすがイチローだね」
メルビンは、そんなイチローがマリナーズ会長付特別補佐兼インストラクターとしてコーチングに専念する姿に驚きはないという。常識を疑うイチローだからこそ、自分や指導する選手にどんなやり方がいいかとじっくり考えたうえでグラウンドに入っていると見る。