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「芸能人に何ができる」批判も…大河出演女優・向後桃が辿り着いた“約束の地”「私はスターダムでプロレスがしたい」《特別グラビア》
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/02/22 17:00
2022年からスターダムに参戦している向後桃。2月23日の大会では、フューチャー・オブ・スターダム王座に挑戦する
超ハードな“メキシコ遠征”で得たもの
今でも、当時を思い出すだけで涙が出てくる。実力をつけるためには、練習だけでなく試合経験が必須だった。2020年9月から、アイスリボンの若手主体興行『P's Party』通称ピースパにレギュラー参戦。これが転機になった。
「ピースパはいろんな団体の若手が集まって、試合前にみんなで練習してちゃんこを食べるんです。その練習もかなり負荷をかけてゴリゴリやるんですよ。その分、コミュニケーションを取るようになるし刺激にもなりましたね。同期(同年デビュー)の選手も多くて、自然に“負けたくない”って気持ちが出てきますし」
2021年からピースパのプロデュースを担当するようになったアイスリボンのトップ選手、春輝つくしの影響も大きかった。向後が得意とする丸め込み技のラ・マヒストラルは、つくしの試合を研究して使うようになった。ピースパに参戦すると、本人からも指導を受けた。
昨年秋にはつくし、藤本つかさとメキシコ遠征へ。遠征メンバーだった選手が負傷したため、代打でチャンスが回ってきた。17日間で8試合はハードなスケジュールだったが、大型でキャリアも豊富な現地の選手たちに揉まれる経験は貴重だった。行動をともにする中で、つくしからは苦手にしていたエルボーも教わる。帰国直後のピースパでは、つくしにそのエルボーを誉めてもらった。
メキシコでは、ラ・マヒストラルを開発した一族のネグロ・カサスからもコツを教わった。
「押さえ込む時の力の入れ方一つで逃れにくさが全然違ってくるんですよ。ネグロさんにかけられて体感しました」
「やっぱり私は、スターダムでプロレスがしたいんだ」
練習量に経験が加わり、向後は急速に力をつけていった。ピースパは昨年で活動を終了したが、その最終興行ではつくしとタッグを組んでメインイベントに出場している。アクトレスガールズではWももでタッグ王座に挑戦。プロレスへの気持ちや欲は高まる一方だった。
その時期に、アクトレスガールズの“プロレス撤退”が決まった。今年から、プロレスの技術と試合フォーマットを使った新しいエンターテインメント・パフォーマンスに方向転換。昨年いっぱいでプロレスを名乗ることをやめた。団体に残留する選手もいれば“卒業”してプロレスを選ぶ者もいた。向後は後者だった。アクトレスガールズが「プロレス団体」ではなくなる。もうスターダムへの思いは抑え切れなかった。
「(アクトレスガールズには)私をプロレスラーにしてくれた恩があります。先輩たちからたくさんのことを教わりました。だからやめようとは思わなかったんです。スターダムは憧れてましたけど、私にとってはブロードウェイみたいなもので憧れてるだけかなって(笑)。でも、団体がプロレスをやらなくなるんだったら……そこで区切りがついたというか、憧れのほうを選ぶ決意ができたんです。“やっぱり私は、スターダムでプロレスがしたいんだ”って」