ラストマッチBACK NUMBER
<現役最終戦に秘めた思い(27)>三宅宏実「最後まで守った父との約束」
posted2022/02/21 07:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Kaoru Watanabe/JMPA
望んでいたコンディションを100とすると、わずか30の状態――。女子重量挙げのパイオニアは、5大会目となる東京五輪を最後と決めていた。
2021.7.24
東京五輪 ウエイトリフティング
女子49kg級 A組
成績
スナッチ:74kg
ジャーク:記録なし
記録:記録なし
◇
バスは晴海埠頭の選手村を出ると、ゆっくりと都心へ向けて走り始めた。これからメダルを争うライバルが同じ空間の中にいる。車内の空気は張りつめていた。
2021年7月24日、東京オリンピック・ウエイトリフティング女子49kg級の競技当日、三宅宏実は静まり返ったバスの中で不安と自負の間を行ったり来たりしていた。
シートを埋めた面々を見渡せば、おのずと自分の立ち位置を実感することになった。20代の選手がひしめく中に35歳の自分がいる。身ひとつで勝負するこの競技において若さは優劣の絶対値である。三宅が下り坂の終わりにいることは明らかだった。オリンピック5大会出場となった日本女子のパイオニアはこれを最後の舞台にすると決めていた。
ただ撤退戦を戦うつもりはなかった。分が悪いのは確かだろう。それでも自分にはまだ何かがあるはずだ。他者の知らない、自分さえ発見したことのない力が残っているはずだと信じていた。
《自分はまだできる。そう思っていたから東京オリンピックに出ることに決めました。メダルを諦めたくなかった。メダルが欲しかったんです》