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ロングセラー「プロ野球選手名鑑」の舞台ウラ…昔は住所&タバコ量も記載、“特技・乳しぼり”のドラ1は「子供もいるので勘弁してください」
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byMakoto Okano
posted2022/02/15 11:01
野球ファンのバイブル『プロ野球選手名鑑』。なかでも随一の情報量を誇る日刊スポーツ新聞社の3名に、名鑑制作のウラ側を聞いた
「原さんの律儀な性格が出ていますよね。丁寧に答えている。私は入社2年目で日本ハム担当になった時、同郷である大島康徳さんに『僕も大分の出身です』と挨拶をしたら、『おお、そうか。それがどうした?』と言われ、尻込みして名鑑の情報を聞けなかった苦い思い出があります。その時は、前年のデータを踏襲しました。ただ、時間が経つにつれて、すごくかわいがってくれるようになりました」
当時番記者「記者同士で競い合っていました」
沢田氏担当1年目の89年、大島の趣味欄は前年までと同じ『ゴルフ』だったが、翌年には『パチンコ』も加わっている。付き合いが深くなったことで、新情報が生まれたのだ。
「当時、どんな面白いことを書くか、記者同士で競い合っていました。みんなで読み比べて、今年はどの球団が一番か決めていましたね。関西の記者は捻りがあって、上手くまとめていた印象があります」
87年、南海ホークスの主な若手選手の『理想のタイプ』を見ると、細かい工夫が施されている(※カッコ内は87年の満年齢)。
畠山準(23) 投手 中森明菜
藤本修二(23) 投手 ちょっと暗い感じの中森明菜
木戸賢永(20) 捕手 中森明菜のようなタイプ
大塚義樹(21) 捕手 中森明菜のような現代っ子
岸川勝也(22) 外野手 中森明菜のようなツッパリ風でかわいい子
同じ『中森明菜』でも、選手によって好きな理由は異なる。表現を加え、微妙なニュアンスを醸し出している。沢田氏に紹介してもらい、この頃の南海担当である編集委員の寺尾博和氏に電話をした。
特技『乳しぼり』から変更。「子供もいるので…」
「選手名鑑? ちょっと暗い感じの中森明菜? 奇特な取材ですね(笑)。理想のタイプを聞いた後、『なんで好きなん?』と質問したんですかね。ただ名前だけ載っていても、面白くないですからね。私の思い出は、87年秋のドラフト1位・吉田豊彦の特技に『乳しぼり』と書いたことです。当時は球団のアテンドではなく、記者が本人と直接やり取りをして、取材の交渉をしていました。実家が酪農を営んでいると聞いて、大分の牧場に行くと牛の乳しぼりを見せてくれた。こうなれば、特技は『乳しぼり』ですよ(笑)。南海は人気がなかったから、どうすれば紙面で大きく取り上げられるか常に考えていました」
吉田豊彦の特技欄には『乳しぼり(プロに入らなければ家業の酪農に就く予定だった)』と記述されており、91年に『趣味・特技』と1つに統一されても『乳しぼり(実家が酪農)』と書かれている。しかし、93年から突如として『ゴルフ』に変わっている。一体、何があったのか。