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「いまはやりきった気持ち」ホンダF1復活の立役者・山本雅史MD57歳の退職後の新たな挑戦とは<実は入社時はエンジニア>
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2022/01/14 17:01
アブダビGPでタイトルを獲得し、レッドブル代表のクリスチャン・ホーナーと喜びを分かち合う山本MD
ホンダのラストイヤーとなった21年には、日本GPで走らせるはずだった特別カラーをトルコGPで復活させた。アメリカGPでなかなか実現できなかった「アキュラ」ブランドをリアウイングに復活させるなどの象徴的なシーンも演出し、世界中のホンダ従業員、ファンの胸を熱くさせた。山本のそんな行動の原点にあるのは、「ホンダって、ちょっと変わっているけど、なんか面白そうなことをやる会社で、それをファンも期待している。そんなホンダを私は愛している」という思いではないだろうか。
ファンを大切にする心は、ドライバーズチャンピオンを獲得したアブダビGPの直後でも変わらず、山本はまずファンに感謝の言葉をおくった。
「F1に復帰して7年間、ホンダF1を応援してくださった皆さん、レッドブル・ホンダ、アルファタウリ・ホンダ、さらにマクラーレン・ホンダから応援してくださったファンの皆さん、本当にありがとうございました。辛いことも厳しい時期もありましたが、皆さんの力でここまでやって来れました。皆さんの激励と温かいメッセージは、常にわれわれホンダの大きな支えになっていました。7年間本当にありがとうございました」
「やりきった」からこその新たな挑戦
そのホンダを辞める決断を山本は下した。
「いまは『やりきった』という気持ちでいっぱいで、ホンダ人生に終止符を打ついいタイミングと考えました。これからは家族と仕事のワークライフバランスをきちんと取りながら新しいチャレンジをスタートさせる決断をしました」
山本が今後どんなチャレンジを行うのかについて、この原稿を執筆している時点では本人からもホンダからも詳細は明らかにされていない。しかし、山本がF1の世界で経験し、実現してきたことは、山本にとってだけでなく、ホンダそして日本のモータースポーツ界にとって、かけがえのない財産となったことは間違いない。そして、その財産を必要とする者がいるはずだ。
ただ、それよりもいまは、自分のことよりもホンダを愛し、全身全霊で戦い抜いた山本の40年間のホンダ人生に、乾杯したい。