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トップバレエダンサーが証言する“羽生結弦27歳の美しさ”「羽生さんも同じかもしれませんね」バレエで大ケガをして涙があふれた日
posted2022/01/07 17:10
text by
いとうやまねYamane Ito
photograph by
JMPA
同号に収録した「アーティストが語る羽生結弦歴代プログラムの美」では、バレエダンサーの首藤康之さんにインタビュー。羽生の過去の『ホワイト・レジェンド』の演技を見て感じたことを語ってもらいました。誌面に掲載できなかった内容を本記事では紹介します。
名門東京バレエ団で主役を演じ、モーリス・ベジャール直々の指名による『ボレロ』では世界を沸かせた。現在も第一線で表現し続けるバレエダンサー・首藤康之は、かつて演出家・振付家マシュー・ボーンによる『スワン・レイク』の舞台に立ち、主役の「白鳥」と「王子」の両方を演じた。
発売中のNumberでは、「白鳥」繋がりということで、羽生結弦のプログラム『ホワイト・レジェンド』について語っている。ここでは誌面に収まりきらなかった話をご紹介したい。
バレエダンサーに「怪我」は付き物だ。フィギュアスケーターとのあまり有り難くない共通点である。
首藤も公演中に足の靱帯断裂という大怪我を負った経験がある。舞台『スワン・レイク』で「白鳥」を演じた時のことだ。
「フランス公演だったんですが、第2幕のソロの最後のところで、何か音がした! と」。その後、無理に続けようと試みるも動けず仁王立ち。相手役のダンサーに袖に押しやってもらい、すぐさま病院に運ばれた。
衣裳もメイクもそのままである。舞台は第3幕から他のダンサーが引き継いだ。
病院では、腫れのせいで脱げない衣裳にハサミが入れられた。その時はじめて事の重大さに涙が溢れたそうだ。
話を聞いていて、ふと羽生の姿がよぎった。
「羽生さんも同じかもしれませんね」
フィギュアスケーターには代わりはいない。羽生が倒れれば、それは本人の成績に直結する。一方、バレエダンサーには、次の主役を待つ別のダンサーが列をなしている。トップの世界はドラスティックだ。どちらの立場も、通らずに済むのならば幸いである。
「当時は年間150ステージとかやってたんです。肉体の酷使という感じで。自分自身が肉体に歩み寄って、肉体と会話をするということは、17~8年間ほとんどしたことがありませんでした」
小さな怪我ならば過去に幾度もあったらしい。でも舞台に立つと、首藤いわく「何か精神が肉体を支配して、普段では出来ないことを可能にしてしまった」とのこと。要は、そのままやり続けたわけだ。