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那須川天心の「RIZIN卒業マッチ消滅危機」に立ち上がった五味隆典の“漢気回答”とは? 榊原信行CEOが語る大晦日の舞台裏
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byKoji Fuse
posted2021/12/30 17:05
那須川天心のRIZINラストマッチの相手は、紆余曲折を経て五味隆典に決定。榊原信行CEOは「五味の漢気に救われた」と深く感謝する
暗礁に乗り上げた那須川のRIZIN卒業マッチ
結局、12月31日の那須川天心のRIZIN卒業マッチは、五味隆典とのスタンディングバウト特別ルールによる3分2ラウンドマッチに落ち着いた。このルールはボクシングに準じたもので、パンチによるKOもしくはTKOによってのみ勝敗は決する。判定までもつれ込んだ場合は勝敗なしとなる。
当初、那須川の対戦相手としては日本人選手として初めてムエタイの2大タイトルであるルンピニーとラジャダムナンを制覇(タイ人以外の外国人選手としては史上2人目)した吉成名高の名前が挙がっていたが、RIZIN側と吉成側の体重やルール面における見解の相違により、土壇場で試合は流れてしまった。名高は12月5日、都内で初めて55kg契約の試合に参戦。タイ人選手を相手に勝つには勝ったが、満足なパフォーマンスを披露することができなかったことも、那須川戦を回避した要因のひとつといわれている。那須川と期待の若手とのマッチメークが具現化しなかったことに、榊原CEOは「本当に残念だ」と肩を落とした。
「最後に試合を選ぶのは選手だし、やらないと決めた以上仕方ないけど、もうこういうチャンスは二度とない気がします」
希代のプロモーターは、那須川がRIZIN初登場時にMMAルールに挑戦し、3日で2試合を戦ったことを思い出したのかもしれない。
吉成に続いて、7戦全勝(6KO)のハードパンチャー龍聖に白羽の矢が立ったが、HIROYAの教えを乞う20歳は拳を骨折中。悩んだ挙げ句、断念せざるをえなかった。
榊原CEOは深いため息をつく。
「交渉が難航した時点で、天心は『もう(若手との試合は)諦めた方がいいかな』と言っていました」
榊原の“直電”に五味は「わかりました。やりますよ」
しかしながら、RIZINラストマッチという舞台は用意されている。視点を変え、榊原は那須川がリスペクトしているファイターとのマッチメークを試みるため、本人にこんな質問を飛ばした。
「誰とだったらやってみたい?」
那須川は答えた。
「五味選手とだったら闘ってみたい」
那須川の気持ちに応えるために、榊原CEOは自らすぐ五味に電話した。
「天心とやってくれないか?」「RIZINを象徴する男として、ここは出てきてほしい」
五味は「もう試合の2週間前ですよ、もっと早く言ってくださいよ」といつもの冗談めかした口調で前置きしつつ、快諾した。
「わかりました。やりますよ」
榊原CEOは絶体絶命のピンチを「五味の漢気に救われた」と安堵した。
「ほかにも若い選手も含め、天心との対戦を受けてくれる人はいました。しかしまだ花が咲いていないのであれば、いまやる意味はない。だったらプロとして天心に持っていないものを持っている“大晦日のお祭り男”に、RIZINにおける天心のラストダンスを一緒に踊ってほしかった」