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残り310m、絶体絶命の有馬記念で見せた執念…テイエムオペラオーの「年間グランドスラム」は“日本競馬史に残る偉業”だった
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph by©Keiji Ishikawa
posted2021/12/25 17:04
2000年の有馬記念を制し、年間8戦8勝で古馬中長距離GⅠ完全制覇という偉業を成し遂げたテイエムオペラオー。その絶対的な強さから「覇王」と称された
「進路がない…!」絶体絶命の有馬記念
そして、12月24日の第45回有馬記念。ここでもオペラオーは単勝1.7倍という圧倒的1番人気の支持を得た。
道中は後方3番手に控え、2周目の3コーナーに入っても、まだ先頭から5馬身以上離された馬群の後ろにいた。ライバルのナリタトップロードが先頭をうかがう勢いで進出し、4コーナーを回った。
ラスト400m地点でもオペラオーは後方のまま、直線へ。馬場の真ん中からダイワテキサスが先頭に躍り出た。オペラオーの前には、馬3列ほどの強固な壁が立ち塞がる。しかも、外からアドマイヤボスに蓋をされ、完全に包囲された状態だ。中山の直線は310mしかない。さすがに進路は確保できず、連勝記録もこれまでか――と思われたが、ラスト200m付近で、前を走るメイショウドトウと、内のトーホウシデンの間に、馬1頭分のスペースができた。和田はすかさず、そこにオペラオーの鼻先をねじ込んだ。和田の叱咤に応え、オペラオーは豪快にストライドを伸ばす。
前のナリタトップロードの外をすり抜け、さらに外を伸びるメイショウドトウとの差を1完歩ごとに詰めていく。
ラスト100m付近で、オペラオーはメイショウドトウをとらえ、横並びになった。
オペラオーは外にメイショウドトウを従え、先頭のダイワテキサスを追いかける。ダイワテキサスもバテずに伸びていたことにより、その斜め後ろに道ができた。
オペラオーの前が完全にひらけた。
ゴールまでラスト7、8完歩のところで、内のダイワテキサスを競り落とした。そして、外から差し返してくるメイショウドトウを振り切り、先頭でゴールを駆け抜けた。
2着のメイショウドトウとはわずかに鼻差。
辛勝ではあったが、ここまでの8連勝で、最も強さを感じさせた一戦だった。
直線なかほどでは万事休すかに見えた。そこから、勝つにはここを通るしかないという細い道を力ずくで切りひらき、突き抜けた。
古馬の中・長距離GⅠ完全制覇という大偉業
同一年に、天皇賞・春、宝塚記念、天皇賞・秋、ジャパンカップ、有馬記念という古馬中・長距離GIの本道すべて(当時、大阪杯はGIIだった)で勝利をおさめたのは、あとにも先にもこの馬だけだ。複数年にわたっても、これら5つのGIをすべて制した馬はほかにいない。全部勝っていそうなディープインパクトは天皇賞・秋、キタサンブラックは宝塚記念を勝っていない。