- #1
- #2
JリーグPRESSBACK NUMBER
「カタさんのサッカーで優勝したい」 J2降格も天皇杯王手…男がホレる片野坂監督とトリニータの6年間《J3→J1の逆襲劇》
text by
柚野真也Shinya Yuno
photograph byJFA/AFLO
posted2021/12/18 17:02
天皇杯準決勝、神セーブを連発した高木駿をねぎらう片野坂監督。J2降格こそしたが、選手たちの表情を見ればチームの雰囲気の良さが伝わる
片野坂監督が大分で指揮を執るようになったのは、チームがJ3に降格した16年シーズンから。
自信を失い、方向性を見失った選手たちに、ピッチ内での動きをきっちり組織化することが試合を進める上で一番重要な要素となると説き、選手個々の明確なポジショニングと徹底された約束事でチームが成り立つことを練習から植え付けた。狙いが選手たちの意識改革につながったのは明白で、片野坂体制1年目から“カタノサッカー”を学んだ松本は、「考えてプレーするようになった」と振り返る。
のちに片野坂監督は「全てが手探りだったが、方向性だけはブレないようにした」と述べている。「走り切る」「球際で身体を張る」「攻守の切り替えを速くする」というサッカーでは当たり前のことを徹底し、マイボールを大事にして、しっかりポゼッションするサッカーを着々と浸透させた。
同一クラブを「2段階昇格」させた監督に
結果、1年でのJ2昇格が決まり、「あの1年が全てだった」と成果を出したことで選手から厚い信頼を得た。ここから片野坂監督は戦術の深度をさらに深め、GKからパスをつないで攻撃を構築するスタイルを築き、2018年にはJ1昇格を果たした。この年のサッカーが今の根幹となっている。
片野坂監督は以前から「試合状況によって柔軟に戦うことが大事。引き出しを増やしたい」と口にしており、対戦相手によってシステムや戦術、選手起用を明確に使い分けるようになった。相手がシステムを変え、戦い方を変えても戸惑うことはない。味方の動きを引き出すランやパスを怠らなかった。球際で戦い、攻守の切り替えを速くするなど、オーソドックスな動きと11人が攻守にわたって最良のポジションを取り続けることで位置的優位、数的優位を獲得し、相手の綻びを見つけて得点につなげた。
片野坂監督は同一クラブを「2段階昇格」に導いた監督となり、J2に続きJ1でも優秀監督賞を受賞する名監督となった。
「集大成の年」と位置付けた今季だったが……
J1で3年目となった今年は、片野坂監督が「集大成の年」と位置付けたが、ずっと低空飛行のままJ2に降格。あまりにあっけない終戦を迎えた。要因は一つではない。複数人の主力を放出したことでチーム状態が安定しなかった。補強した選手は力があったが持ち味を発揮できなかった。主力のほとんどが一度はケガで戦列を離れた。試合では安易なミスから失点した。攻撃では大胆さが足りず、シュート数は片手で数えられる試合も少なくなかった――。
片野坂監督は「選手の良さを引き出す力がなかった。自分の力不足」と悔しさをにじませた。そして、自らが責任を取り、退任の道を選んだ。この6年間でそれまでコーチとして地道に培った引き出しが尽き、疲弊したように思えたが、そうではなかった。