ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
23年守ったシードを喪失…52歳・藤田寛之が目指すものは? ガンを宣告されてもツアー出場を続けた“マムシ”の残像
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYoichi Katsuragawa
posted2021/12/09 06:00
初めて手にした賞金シード権を手にした1997年以来、23シーズンに渡って守ってきた権利を喪失した藤田寛之。52歳となった今も、まだ目指すものがある
老いは人間の、自然の摂理ゆえ、“異変”の表現はおかしいかもしれないが、藤田自身、加齢による影響を痛感したのはおよそ3年前だった。
空中に放物線を描いた白球の、バウンド後の動きが見にくくなった。当時キャディを務めていた1歳上のピーター・ブルースも試合中、目を細めて必死に転がりを確認するようになっていた。
「ふたりで『見えないね』って話していて。ゴルファーはボールが落ちて、そこからどう止まるかくらいまで把握しないと雰囲気がつかめない」
ドライバーショットがどこに落ちたか分からなければ、300ヤード近くを歩くあいだに次のショットをイメージできない。アイアンショットがグリーン上でどう跳ねたか確認できなければ、地面の硬さも、風の影響も推し量ることができない。視力の低下はプロとしては致命的ともいえた。
毛嫌いしていたカラーボール
50歳に差し掛かる頃、藤田はアクションを起こした。長年愛用してきた白いボールを、黄色にスイッチしたのである。2019年4月、ツアー大会で実戦投入してみると、2人合わせて100歳オーバーのコンビは「『見えるね、楽しいね』って」、子どものように意気揚々と芝の上を歩いた。
昔気質な職人っぽさではあるのだが、藤田はその前からプロの世界でも流行していたカラーボールを毛嫌いしている節があった。「視覚的なフィーリングで、白のほうが、ぐにゅっと軟らかい感じがして好き」。だが、実際のところ性能には差がないという。「目をつむって、何回もランダムで実験してみた。『黄色のほうが絶対に硬い』と思っていたけど、(目隠しをしたら)わからない、正解が当たらなくてね」
昨年からは50歳以上の選手がプレーするシニアツアーにスポット参戦するようになった。「この期に及んでもまだピンとこない」と、依然としてレギュラーツアーが刺激的だが、シニアの試合で周りを見渡すといかにカラーボールを使う選手が多いことかと驚く。そして、自分が次のステージに足をかけていることにも改めて気づかされるのだった。