倉田　ぜんぶ自分ですね。不確かなことを中継で言うわけにはいかないので、JRAのホームページから過去の戦績を引っ張ってきたり、厩舎コメントもグリーンチャンネルで言っているものなら間違いないだろう、と集めていきます。GⅠの場合は2週間前に登録馬が出るので、そこからレース当日までコツコツやっています。

――すべての馬について準備しているからこそ、本番のレースで何があっても対応できる。

倉田　それこそエリザベス女王杯は、関西テレビの岡安譲アナウンサーが実況していたのですが、スゴいなあと思いました。10番人気のアカイイトが勝って、岡安アナは「運命のアカイイト！」と言っているんです。鞍上が幸英明（みゆき・ひであき）ジョッキーで、“幸”との巡り合わせも岡安さんの中であって、何かキーワードが浮かんでいたんだと思うんです。そうじゃなければ、あそこでパーンとあのフレーズは出てこない。もっとスゴいのは、岡安さんは「これは荒れた！」って言えているんです。この言葉は勝ち馬だけじゃなくて2着・3着も人気薄じゃないと使えないから、岡安さんは2着馬・3着馬のこともしっかり頭に入れている。ほんとうに競馬が好きなアナウンサーですし、さすがだなと思いながら聞いていました。

――実況の現場で2着馬・3着馬はどの馬で……という情報はスタッフからカンペが出たりするんですか？

競馬実況席での倉田アナ（写真＝本人提供）

倉田　いやいや、出ないですね。きわどいときには実況もわからない。だからわからないときには言わないように、と教わっています。ぼくの実況した安田記念、1着ダノンキングリーって言い切っているんですけど、実はグランアレグリアの2着を言えていない。本当は全部が見えないとダメなのですが、なかなか簡単ではないんですよね……。

土曜日に競馬場で12レースまで練習する

――視聴者のことを考えると1番人気の馬は確実にフォローしないといけないですし、かといって人気薄の馬も忘れずに、それでいて勝負が決まったら勝ち馬についてしっかり伝える……聞けば聞くほど難しそうです。

倉田　言いづらい名前の馬もいますしね。GⅠだと有名な馬ばかりが出てくるので覚えやすいんですが、そうではないレースだとスタート直前、輪乗りをしているときに双眼鏡で見ながらブツクサ言って覚えているんですよ。

「赤い帽子の○○、2馬身後方に△△、さらに3馬身後方からは××が●●に接近して、外からは……」みたいに。声に出して復唱して馬の名前を覚えてスムーズに出るようにする。実はもともと競馬実況を志望してフジテレビに入ったわけではなく……学生時代に競馬が好きだったわけでもないので最初は慣れるまで、けっこう大変でしたね。

――競馬実況の練習はどうやって？

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