濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
5年ぶりの死闘、RENAと山本美憂はなぜ“笑顔”だったのか? RENAが「ハッピーエンドにはさせない」と語った裏に《KIDとの物語》があった
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2021/11/24 17:00
RIZIN.32のメインイベントとして行われたRENAvs山本美憂は衝撃的なKO決着に
5年前だったら、あの十字で終わっていたかもしれない
試合の立ち上がりは緊張感に満ちていた。RENAは美憂のタックルを警戒し、美憂はRENAの打撃をディフェンスしなければならない。ただ“それだけ”でもいけない。今の2人には、それ以外の武器もあるのだ。
最初のタックルは切られた美憂だが、2度目に成功。ローキックに合わせてのものだ。鋭く、かつ軌道の大きな左フックを出していたのも効果的だったはずだ。パンチのガードを意識すれば、それだけタックルの防御が(幾分かでも)おろそかになる。
逆にRENAは下から腕ひしぎ十字固め。MMAは相手を投げて終わりではない。腕を完全に伸ばされる瞬間もあった美憂。しかしこれを脱出してみせた。練習してきた通り、かつセコンドの指示通りだったそうだ。「あれで極まってたら旦那(セコンドのカイル・アグォン)に怒られちゃう(笑)」と美憂。
5年前だったら、あの十字で終わっていたかもしれない。中継の解説、藤井惠の言葉に誰もがうなずいたはずだ。美憂は2ラウンドにもテイクダウン、パンチとヒジを落としていく。RENAはサブミッションを仕掛けたり立ち上がったりするためのスペースを作ることがなかなかできない。しだいに両眼の下が腫れてきた。おそらく初めてのことだという。右目の上からは出血。試合後に縫うことになった。これは明確に初体験だった。
前回対戦以上に鮮やかで衝撃的なフィニッシュ
そこまで追い込まれてなお、RENAの勝負勘は冴えていた。美憂がまたしてもタックル。そこへRENAの右ヒザが直撃した。前のめりに崩れた美憂にパンチの追撃を叩き込んで試合終了。前回以上に鮮やかで衝撃的なフィニッシュだった。
「体が勝手に動いた感じです」
試合後のRENAは言った。だが単なる偶然でもないだろう。右のヒザ蹴りを放つ直前、RENAは左足を軽く上げている。蹴りのフェイントだ。序盤から左ローを当てられていた美憂はこれに反応した。着地している右足めがけてのタックル。そこにさらなるカウンターとして決まったのがヒザ蹴りだった。
フェイントに反応させてのカウンター。これはあらゆる格闘技の基本と言ってもいい。だがそれをピンチの直後、ここまで完璧にやってのけるのだから感服するしかない。ましてタックルにピンポイントでヒザを合わせるなど至難の業だ。もしかすると、美憂だからRENAの左足に反応し、タックルを仕掛けることができたのかもしれない。