猛牛のささやきBACK NUMBER
「自分の立場をもう少しわかってほしい」オリックス山岡泰輔が心に刻む “26球”と監督室での会話《神戸で注文したクレープ90個》
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph bySankei Shimbun
posted2021/11/23 11:07
右肘の手術から2カ月、11月16日の紅白戦で実戦復帰を果たした山岡泰輔。それでも「絶対無理しない」と誓うのは、中嶋監督からもらった言葉があるからだ
山岡には忘れられない後悔と反省がある。
「ほんまにやっちゃいけないことだった。すごく迷惑かけたんで。絶対、二度とやらん」
そう胸に刻んでいるのは、今年6月22日の日本ハム戦だ。先発した山岡は、右肘の痛みでいつものようにボールを操ることができず、マウンド上でしきりに汗を拭った。1回表の1死満塁から、この日3つ目の四球を出し、押し出しで1点を与えたところで、高山コーチがマウンドに行き、交代となった。わずか1/3回、26球での降板だった。
実はその1週間前の二軍戦で調整登板した際、右肘にパーンという衝撃があった。だがそれを飲み込んで、1週間後、一軍のマウンドに上がった。
「1週間あったらいけるかなと思ったんですけど、ダメだった。本当にやっちゃいけないことでした」
山岡が1/3回で降りたあと、山田修義が緊急登板し、1死満塁のピンチをしのぎ、3回まで無失点に抑えた。その後は漆原大晟、富山凌雅、K—鈴木、能見篤史、澤田圭佑と計6投手が繋いでその間1失点に抑え、打線の援護もあり5-2で勝利した。
ズシンと響いた中嶋監督の言葉
翌日、山岡は監督室に呼ばれた。
「自分の立場をもう少しわかってほしい。うしろのピッチャーに迷惑をかけたことだけは、絶対に忘れるな」
中嶋監督の言葉が、山岡にズシンと重く響いた。
「そういうことは以前から言われてはきましたけど、直接そうやって怒られたことはなかった。『こういうことは絶対にやっちゃダメなんだ』と改めて自分に言い聞かせました」
自戒の思いから、無理は禁物だと自分を制してきた。それでもチームがCSを突破し、日本シリーズの出場権を勝ち取ってくれたおかげで、山岡にもマウンドに立つ可能性が生まれた。感謝の思いと、チームのためにできる役割は何でも果たそうという意気込みでいる。
「もちろん投げられるに越したことはないですけど、チームが勝ってくれたら、別に投げなくてもいい。でもできれば帯同して、応援したいなと思います。ベンチに入らなくても、メンバーに入れてもらえたら、それだけで嬉しい」
そう語っていた2日後、日本シリーズの出場資格者入りが発表された。