濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「覚悟が決まりました」春輝つくしが“メチャクチャにやり散らかし”てアイスリボンのトップに 8度目挑戦でベルトを巻けた理由とは?
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/11/23 11:00
ICE×∞新チャンピオンとなった春輝つくし(中央)と、対戦した藤本つかさ(右)、豊田真奈美(左)
“再デビュー”後には心を閉ざしていた過去
つくしは2017年に“再デビュー”している。この年の7月にレスラーの友人にケガをさせ、逮捕されたのだ。20歳を迎えたあと、その事実を公表し、佐藤肇社長らとともに謝罪会見を行った。家庭裁判所では不処分となったが、つくしはリングから一時離れることに。示談交渉が成立して戻ってきたのは大晦日だった。再デビューという形だから、たとえば団体公式サイトのプロフィール掲載順も下になった。
出直し、やり直し。自分を可愛がってくれる豊田の引退興行に出場することもできなかった。もちろん力があるから再デビュー後も最前線で闘ってきたしICE×∞王座に挑戦もしたが、心のどこかにためらいがあった。
「あんたはアイスリボンのトップに立たなきゃいけない人間なんだよと言われても、心を閉ざしていました」
藤本のつくし評「強みが今は薄れてるかな」のワケ
自分がアイスリボンのトップに立っていいのか。団体を引っ張っていくことができるのか。煩悶にようやくケリをつけて、つくしは藤本に挑戦表明した。腹が決まった要因の一つには“立場”もあるだろう。キッズレスラー出身のつくしだが、現在は若手主体興行P's Party(通称ピースパ)のプロデューサーを務めてもいる。試合の日はアイスリボン以外の団体からも集まった選手たちと一緒に練習し、ちゃんこを食べ、それぞれの思いを聞いてつくし自身もリングに上がる。
IW19王座を奪われた際には、ピースパに出ている選手たちのためにも取り戻さなければと燃えた。自分の背中を見てついてくる後輩たちがいる。その意識はつくしを大人にし、レスラーとして成長させた。
ただ、それだけでは勝てないという見方もあった。豊田は8度目の挑戦に向け「やり散らかせ」とアドバイスを送った。もう何も遠慮しなくていいんだ、と。
責任感のある大人になったことで、つくしから失われたものもあるのではないかと指摘したのはチャンピオンの藤本だ。
「昔はメチャクチャでしたからね(笑)。プロレスには“受けの美学”という言葉がありますけど、つくしの場合はひたすら攻撃。対戦相手の気持ちなんて全然考えないでマシンガンみたいに攻めてくる。それが強みだったんですけど、今は薄れてるかな」