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スカウトが持ち歩く「虎の巻」、セカンドキャリア支援…ホークスが育成ドラフトで“大量指名”できたワケ《史上最多の14人》
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph bySankei Shimbun
posted2021/10/21 11:07
昨年、育成ドラフト出身選手として史上最高年俸の4億円でサインした千賀滉大(金額は推定)。今秋ドラフト会議では「第2の千賀」を目指す14人の育成選手を指名したが、その背景にあるものは――
「練習だけで選手の能力を伸ばすのは難しい、との考えからホークスは三軍を設立しました。もちろん基礎的な体力や技術を身につけることは必要ですが、何より試合を経験していくことで選手たちのモチベーションが高まるし、責任感も出てくる。ただ、一方で試合ばかりでもいけない。試合と練習のバランスを上手くとる。そのためには、今までよりも選手の数が必要になるのです」
球団の考えやビジョンは、わかった。
ならば、ここで視点を変えてみる。育成選手の立場からすればどうだろうか。正直、より厳しい環境に立たされることになったといえる。
これまでも「第2の千賀滉大」「第2の甲斐拓也」を目指して、わずか1枠か2枠の支配下登録の可能性を約20名の育成選手たちでしのぎを削ってつかみ取りにいっていた。それが30~40名の中での競争となるのだ。より充実した育成環境が整う一方で、かなりの狭き門となる。
ホークススカウトが持ち歩く“虎の巻”
先の育成ドラフトで指名された14名の若者たちがどのような未来を思い描いているのかは様々だ。ただ、それでも彼らは「育成でもいいのでプロに行きたい」との意思を示した可能性が高い。
ドラフト前に、NPB各球団は興味のある選手を対象に「調査書」を届ける。これは統一様式ではないため細かな記述内容は異なるのだが、「育成指名の可否」を問う欄は必ず設けられている。
基本的に球団は選手の意思確認をしたうえで指名に動くことになっている。
「育成指名を拒否する選手は少なからずいます。本人はもとより、家族や学校の指導者が反対する場合もあります。ほら、あそこを守っている選手もそうですよ」
ある日、スカウトと試合を観ていたときに「彼はそのチームに支配下で指名されたから、結果的に良かったですけどね」と、セ・リーグの某外野手を指さしてそんな話をしてくれたことがあった。
ならば、どのようにして育成指名で入団してもらえるのか。ホークスはそれを考えた。
実はホークスのスカウトたちは「虎の巻」をいつも持ち歩いている。