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「11年W杯メンバーは小中学生まで男子のスピードの中で…」長谷川唯が旧知のコーチと語る女子サッカーの“フィジカル”問題 

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栗田シメイ

栗田シメイShimei Kurita

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posted2021/10/19 06:00

「11年W杯メンバーは小中学生まで男子のスピードの中で…」長谷川唯が旧知のコーチと語る女子サッカーの“フィジカル”問題<Number Web> photograph by Getty Images

今季からイングランド女子スーパーリーグのウェストハムでプレーするMF長谷川唯。10月3日にはマンチェスター・シティ相手にリーグ初ゴールを奪った

津越 今回の代表を見ていると、サイドには推進力がある選手がいて、中盤にもゲームを作れる選手が揃っており、DFの質も高かった。その一方で前線にボールが収まる選手がいなくて、技術を活かせる選択肢が限定され、攻撃が手詰まりになっているように見えた。他のポジションはまだしも、FWには攻撃の起点となる強さと速さがある選手が必要で、そこは換えが利きにくい。11年には安藤梢選手や永里優季選手がいて、そこは海外の選手相手でもボールが収まった。だから多彩な攻撃が出来ていたし、身体的な強さも感じていた。

長谷川 U-20で優勝した若い世代からは、スピードに技術やパワーもあって、という選手が日本でもだんだん増えてきています。ただそれに対して海外の選手たちの技術の部分、判断力だったり、戦術理解のスピードの方がより上回っているというか。もちろん日本も成長している部分もありますが、それ以上に海外の成長スピードが速い。

 例えばサイドチェンジ1つとっても、男子なら1発でいくところが女子だと何箇所か経由して、となる。それは筋力的な強さも関係してきますよね。でも、イングランドでは1発で通す選手も多い。そういった部分が世界との差になってきているのかな、とも思います。

津越 永里選手がドイツのポツダムにいた時(10-13年)にドイツで話して、この頃からサイドから逆サイドへ1発でバンバン蹴れる選手が既に出てきていると言っていた。あの時からさらに時代が進み、女子サッカーのスタイル自体が変化してきている。

長谷川 そうですね。ブチさん(岩渕真奈/アーセナル)が五輪後に話していたのが、「出られる選手はなるべく(海外に)出た方がいい」ということでした。もちろんそれが全てではないんですが、身体的な強さや寄せのスピードといった基準を感じるためにも、外に出る経験も必要だ、と。

競技人口は増えたことでの課題

津越 逆説的だけど、11年W杯メンバーはキャリアでベレーザを経由した選手が多い。彼女達に共通していたのは、小中学生くらいまで男子に交じって、男子のスピードの中でやっていたということ。今は競技人口が増えて、小中学生などは女子同士で戦うケースの方が多い。そういった流れに変わりつつあるけど、やはりより速いスピードの環境に身を置くことは重要で。もちろん競技の普及は大切だけど、強化の視点で見ると別の問題が生まれている。

 澤穂希さんや阪口夢穂選手らが海外選手にも球際で競り勝っていたのは、身体的な強さに加えて、そういったスピード感覚に対する慣れも大きかった。

長谷川 国内ではそこまでコンタクトが強くないし、代表クラスの選手だとそこで負けるという経験もあまりないですよね。世界で勝っていくには戦術やサッカー理解を深めることも大切ですが、最低限のフィジカル的な強さは必要だと思います。今の日本の選手達が、最大限やれることを全てやった上でのフィジカルかと言われると、やっぱりまだまだ出来ることもあるし、やるべきこともある。だからこそフィジカルの底上げは必要だと思うし、イングランドに来てその思いも強まりました。

 逆に津越さんに聞きたいんですが、男子と女子でトレーニングに対するアプローチは違ったりするんですか?

津越 試合における活動パターンを比較しても、男女に差はみられなくて、基本的にはアプローチの仕方は、同じ。ただ高強度のランニングやスプリントに差がある。あと、脳が指令を出してから、体が動作を行って最大パワーに到達するまでの速度には男女で大きな差があって。女子の場合は膝の靭帯を怪我する選手が多いけど、それは瞬間的な速さに体が遅れることが原因の1つでもある。

 だから、スピードに乗った状態で加速、減速を繰り返したり、反射・反応を高めるトレーニングの比重を多くしたりは意識していたかな。あとは最大パワーをあげるウェイトトレーニングや体幹トレーニングも大切になってくる。

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