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運命を分けた雨…「たった1周ですべてが一変」して初勝利を逃すも、ノリスが見せた駆け引き不要の速さ<王者ハミルトンも賞賛>
posted2021/10/01 17:02
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images
3度チャンピオンに輝き、通算25勝を挙げた伝説のドライバーであるニキ・ラウダ(元メルセデスF1チーム非常勤会長)は、生前こう語っていた。
「私は何度も優勝したが、最も難しかったのが初優勝だった。私が初めて勝ったとき、その年のチャンピオンになったエマーソン・フィッティパルディが私にこう言ったよ。『おめでとう、次の勝利もすぐにやってくるよ』」
今年のロシアGPもまた、いかに初優勝が難しいかを物語るレースだった。
ポールポジションからスタートしたのは、参戦3年目でまだF1で優勝経験がないランド・ノリス(マクラーレン)。スタート直後にカルロス・サインツ(フェラーリ)にリードを奪われたものの、13周目にトップの座を奪取。その後は7冠王者のルイス・ハミルトン(メルセデス)を抑えながら首位を維持し、53周で争われるレースは終盤47周目に突入した。
ここで雨が降り始めた。ただし、雨は小降りで、路面を少し濡らす程度。ドライタイヤのままでも走行できる状態だった。
運命を分けたタイヤ交換
しかし、ポイント圏外で失うものがないドライバーたちの多くが、ドライとウェットの中間用のインターミディエイトにタイヤを履き替えると、レース展開は大きく動き出す。
48周目にはポイント圏内を走行していた数名のドライバーがピットイン。その中にはポイントリーダーで、このレースではパワーユニット交換のペナルティを受け最後尾からスタートしていたマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)がいた。
これに反応したのが、メルセデス陣営だった。47周目にトップを走るノリスとの差を1秒以内まで詰めていたものの、メルセデスにとって戦うべき相手はノリスではなく、タイトル争いを繰り広げているフェルスタッペン。そのフェルスタッペンと同じ戦略を採って、確実にフェルスタッペンの前でフィニッシュすることが重要だった。
ノリスをかわせば勝利を掴めるハミルトンも最初はピットインの指示を拒んでいたが、チャンピオンシップを優先するチーム戦略を理解。49周目にピットインし、ドライからインターミディエイトへタイヤを交換した。