炎の一筆入魂BACK NUMBER
「今は偶然、奇跡に近い感じ」カープ鈴木誠也が6試合連続本塁打と絶好調でも危機感を抱き続ける理由とは
posted2021/09/13 11:03
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PHOTO
長いトンネルを抜けたと思われたが、まだ出口を抜けてはいないようだ。シーズン100試合を過ぎても、広島の鈴木誠也から納得したコメントは聞かれず、納得した表情も見られない。
9月9日には、6試合連続本塁打という、プロ野球記録にあと1試合と迫る球団記録をマークした。それでも試合後には「そんなこと言っている場合じゃない。僕はもう、毎日必死で打たないと」と危機感を口にした。下位に低迷するチーム状況もある。喜びを我慢しているわけではなく、謙遜しているわけでもなく、本心からの言葉だろう。
9月12日現在、打率.314(リーグ3位)、本塁打28本(同3位タイ)、打点64打点(同4位タイ)、OPS1.046(同2位)という成績を残していても、だ。
今季の鈴木はずっと、もがいている。
前半戦は、高いパフォーマンスを発揮する上で欠かせない心技体のいずれかが、常に崩れていたように思う。相手と戦う前に、自分と戦っていた印象が強い。
昨オフ、打撃の根幹となるフォームを大きく変えた。キャンプを通して取り組んでシーズンに入ったが、納得できる打撃ができない打席が続いた。微修正を加えながら実戦を重ね、「技」の答えを探る作業が続いた。
開幕しても整わなかった「心技体」
さらに5月には新型コロナウイルス感染、戦列復帰後しばらくすると、今度はワクチン接種の副反応により、コンディションが悪化した。「技」に磨きをかけている中、「体」が崩れたことで、心技体のバランスは大きく崩れた。
「結局は体。筋力が上がってこないと、技術的にも影響してくる」。心技体を下支えする「体」の回復を優先するしかなかった。全体練習後に自主的に行っていた俊敏性のトレーニングを控え、ウエートトレーニングを増やした。
前半戦はおそらく納得できる打席は一つもなかったのではないだろうか。五輪前に打撃状態を聞かれたときの返答、「最悪ですね」は、きっと本心だ。
五輪出場を経て、後半戦はようやく地に足をつけてプレーできる感覚になっているのではないか。
ひとつはコンディションの向上にある。本人はまだ「あまり良くない」というが、全体練習後のショートダッシュを再開。新たにメディシンボールを使ったトレーニングも行うなど、試合までの調整の変化にコンディションの向上が窺える。