濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
ハッキリ言って“弱い”けど…東大卒・弁護士レスラー剛馬(39)が語る〈敗北の極意〉「プロレスと裁判に共通するのは…」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/08/18 11:01
弁護士法人Nextでさまざまなトラブルに向き合いながら、プロレスラーとしても活動している川邉賢一郎(リングネームは剛馬)
「泥水すすっても生き残れる人間でありたい」
人権派弁護士、庶民派弁護士など弁護士にも様々な形容があるが、川邉賢一郎はどんな弁護士か。そう聞いて返ってきた答えは「泥弁護士、じゃないですか」だった。
大企業の顧問として海外進出の立役者になったとか、大規模なM&Aをまとめ上げたとか、そんな華やかな仕事はしていない。町の人々が抱えるトラブルに一つ一つ向き合うのが性に合っている。得意なのは「ゲリラ戦」だ。
「泥水すすっても生き残れる人間でありたいという気持ちはありますね」
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弁護士として、正義感は当然持つべきだが自分はそれを振りかざすタイプではないとも考えている。
「刀を持っていても、抜くか抜かないかは時と場合と人によるんだと思います。プロレスもそうじゃないですか。みんながみんなストロングスタイルなわけではないので(笑)」
それでも、時には「これは何としてもやらなければ」と奮い立つこともあるそうだ。
「偉い人に内容証明送ったり。女性に何千万という借金を背負わせた詐欺師を徹底的に追いかけたこともありますね」
実力者相手に「渾身の六法殴打」
プロレスのリングでも、予期せぬ大一番があった。7月27日の大会でシングル王者の塚本拓海とトーナメント優勝者・藤田ミノルのタイトルマッチが決定していたが、塚本にコロナ感染者との濃厚接触の疑いがあったため欠場。大会前日のことだ。急きょ代打として藤田と闘うことになったのが剛馬だった。
「家族と旅行に行って、帰ってきたらイサミさんから電話があったんですよ。確かに僕はトーナメントに出てない。だから藤田さんに負けてない。ワイルドカードみたいなもんです……にしてもねぇ。なんてことを考える団体なんだ(笑)」
インディーマット界でも屈指の実力者にして個性派、数多くの団体で活躍する藤田と、トーナメントにエントリーすらしていない剛馬。BASARAらしい“見事なミスマッチ”だった。そしてこの試合、剛馬はいつものように笑わせ、藤田の攻撃を受けて悲鳴をあげ、しかし粘りに粘り、最後は渾身の六法殴打を決めて両者リングアウトに持ち込んでみせた。
試合後も意気上がる剛馬は塚本vs.藤田の勝者に挑戦すると宣言してみたものの、それはそれ。次の出場となる8.18新宿FACE大会で組まれたのは「ラップバトル(対戦相手未定)」なのだった。
史上初、東大卒の現役弁護士ラッパーレスラーが誕生するのか。「支離滅裂すぎますよ!」と嘆く剛馬だったが、考えてみればデビュー以来ひたすら無茶振りに応えるレスラー人生だ。転がされ上手を発揮して、今回もなんとかなりそうな気はする。そして翌朝には、また“泥弁護士”川邉賢一郎として事務所に向かうのである。
(【前編を読む】「凶器は模範六法」「伊製高級スーツでリングイン」異色の“東大卒”弁護士・川邉賢一郎がプロレスラーになるまで へ)