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乙黒拓斗(22)は強者ゆえの「包囲網」にも負けず…“ポーカーフェイス”が雄叫びを上げた日《レスリング金メダル》
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byJMPA
posted2021/08/08 17:06
レスリング男子フリースタイル65kg級にて金メダルを獲得した乙黒拓斗。
「自分のどこがいいのか拓斗がわからなくなったところを言葉で整理して伝えるようにしました。そもそも、ひとつひとつの技の完成度は高い。いいところはいいところで戻すようにしました」(前田コーチ)
プラスアルファを簡潔に説明すると、崩しやフェイントを指す。
「そこの部分の動作は多少バレても、相手にかかるようにすることが重要」(同)
今年4月、乙黒はオリンピック前に実戦を経験しておこうと、カザフスタンで開催されたアジア選手権で圧倒的な力を示したうえで優勝した。試合前から乙黒は自分の仕上がり具合に自信を抱いていた。
「(自分の)レスリングが変わった」
“泥にまみれても輝きを失わない天才”
新しいレスリングを武器に、乙黒は東京のマットに立った。初めて世界選手権で優勝した頃、筆者は乙黒を“ナイーブな天才”と形容したかった。その直後、うまくいかないことがあると、自分の感情を言葉としてうまく伝えられないことが何度あったことか。
しかし、東京での乙黒は“泥にまみれても輝きを失わない天才”に映った。ラシドフとの準決勝でも、決勝のときと同じように乙黒は1点差で逃げ切っている。自分の長所を最大限に活かした猫のような動きも重要ながら、オリンピックという大舞台では徹底して勝利にこだわることの方が重要だ。
表彰式後、初めてオリンピックの金メダルを首から下げた乙黒は夢うつつだった。
「手元にあることが信じられない。金メダルは重いですね」
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