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乙黒拓斗(22)は強者ゆえの「包囲網」にも負けず…“ポーカーフェイス”が雄叫びを上げた日《レスリング金メダル》

posted2021/08/08 17:06

 
乙黒拓斗(22)は強者ゆえの「包囲網」にも負けず…“ポーカーフェイス”が雄叫びを上げた日《レスリング金メダル》<Number Web> photograph by JMPA

レスリング男子フリースタイル65kg級にて金メダルを獲得した乙黒拓斗。

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布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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JMPA

 楽な試合など、ひとつもなかった。1回戦から決勝まで、いずれの試合でも失点している。全てが試練の一戦だった。

 準決勝で肌を合わせたガジムラド・ラシドフ(ROC)は2019年世界選手権の3回戦で乙黒拓斗を撃破。その勢いで優勝している。準々決勝で当たったイスマイル・ムスカエブ(ハンガリー)には同選手権の3位決定戦で辛酸を舐めさせられていた。

 まるで香港のアクション映画『死亡遊戯』で主人公のブルース・リーが五重の塔の階段を上がるたびに強敵が待ち受けているようなシチュエーションだった。

「決勝の残り30秒は何も覚えていない」

 8月7日、レスリング男子フリースタイル65kg級決勝で乙黒拓斗(自衛隊体育学校)がハジ・アリエフ(アゼルバイジャン)を5-4で破り、オリンピック初出場で初優勝を果たした。

 いつもはクールな韓流スターのようなポーカーフェイスが定番ながら、よほどうれしかったのだろう。優勝が決まった刹那、右手を高々と掲げながら乙黒は雄叫びをあげた。

 アリエフとは2019年の世界選手権の敗者復活戦で初対決。このときはクロスゲームの末に11-9というスコアで乙黒が辛勝している。

 2年ぶりの対戦となった今回も両者は手が合った。勝負のポイントは第2ピリオドに乙黒のタックルに合わせ、アリエフが絶妙のタックル返しを見せた攻防。結局、審議の末、「タックルを仕掛けた乙黒は返されていない」と見なされ、アリエフのポイントにはならなかった。この攻撃によって、乙黒は4-2とリードに成功する。

 残り時間は14秒。死に物狂いで攻めてくるアリエフに対して、乙黒は“逃げるが勝ち”とばかりに右へ左へエスケープ。その防御の仕方が度を超えていると見なされたのだろう。主審は乙黒に2度警告を与え、そのつど相手に加点された。それでも、アリエフの点数は乙黒のそれに1点だけ追いつかなかった。

 いつも自分の試合の流れは鮮明に覚えているのに、乙黒は「決勝の残り30秒は何も覚えていない」と振り返った。レスリング競技では世界最高峰の舞台と定義づけられるオリンピック独特の空気がそうさせたのだろうか。

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