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瀬戸大也「お前なら絶対できる」萩野公介「お前ギリギリじゃん!」 トップスイマーに可愛がられる“銀メダル”本多灯19歳
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byJIJI PRESS
posted2021/08/05 11:02
200mバタフライ銀メダリストの本多灯(奥)は尊敬する瀬戸大也から掛けてもらった言葉を明かした(写真は4月の日本選手権)
「200mバタフライの決勝の時、俺、一番端だから他の選手のことを気にする必要はないんだなと思えたのは、大也さんのお陰です」
瀬戸「練習しかねぇよ」
年齢は7歳違いと離れている。出身のスイミングスクールも所属も違う。しかし、瀬戸から受けてきた影響は非常に大きい。
本多が高校3年生だった19年のこと。夏に控える世界ジュニア選手権を前に欧州グランプリに出場したものの、力を出せないままに敗退するレースが続いた。
「ズタボロな成績で、これから世界ジュニア選手権もあるのに、こんな状態で行けるのだろうかと思いました」
本多は、同じ大会に出ていた瀬戸にこう尋ねた。
「どうすればいいですか」
「練習しかねぇよ」
視界がスッと開けた。
「大也さんが言う『練習』というのは重みが違う。納得できる。言われてからは、また一からやるしかないなと思えたんです。失うものはない。チャレンジしていくしかないじゃんっていう気持ちにもなった。大也さんが変えてくれました」
その後の世界ジュニア選手権で2位になり、関係者の注目を浴びた。20年日本選手権で初優勝し、今年4月の日本選手権では自己ベストを塗り替える1分54秒88のタイムで、瀬戸を破って東京五輪切符を手にした。
本多と瀬戸といえば、昨年秋のISL(インターナショナル・スイミング・リーグ)の件もある。女性問題で活動停止処分を受けることになった瀬戸に代わる選手を探していた「東京フロッグキングス」の北島康介GMが声を掛けたのは、日大1年生ながらインカレで2冠を獲得した本多だった。
「運が良かったというのかどうかわからないのですが、ISLに出られたお陰で五輪の代表権を取れたと言っても過言ではないと思っています」
ISLで海外のトップスイマーと切磋琢磨したことがさらなる成長の下地をつくったのだった。
萩野公介も「お前、ギリギリじゃん。でもそれがいいんだよ!」
人懐こい性格と向上心の持ち主である本多には、トップスイマーに可愛がられる魅力があるようだ。
東京五輪では瀬戸だけではなく、萩野公介からかけられた言葉にもパワーをもらったという。萩野とは選手村で同部屋。
「予選も準決勝も部屋に入ってから公介さんに会ったのですが、予選の後は『準決勝に残るってわかってたよ』と言ってくれて、準決勝の後は『お前、ギリギリじゃん。でもそれがいいんだよ!』と言ってくれました。公介さんは『お前、マジでほんとに残ったことを喜べ』とも言ってくれて。そういう言葉は公介さんしか、たぶん出せない。公介さんに言ってもらえてすごくうれしかったです」
素直で明るく、抜群の吸収力を持つ本多。この種目での日本勢のメダル獲得は04年のアテネ五輪から5大会連続となったが、まだ金メダリストはいない。目指すのはもちろん、パリ五輪の金メダル。19歳の未来はどんどん開けている最中だ。