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敗退後の瀬戸大也は銀メダル・本多灯に“ある言葉”をかけていた “王者の活動停止”が19歳にもたらした影響とは
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byGetty Images
posted2021/07/29 06:01
男子200mバタフライで銀メダルを獲得した本多灯。苦戦を強いられている日本競泳陣の流れを変えるメダルとなるだろうか
瀬戸大也の活動停止は転機になった
2019年世界ジュニア選手権で銀メダルを獲得し、2020年日本選手権で初優勝。そして今春、五輪代表の選考会である日本選手権で先行する瀬戸大也を最後の15mで抜き去り、連覇を達成して地力のたしかさを感じさせた。
伸び盛りにあるスイマーの転機は、昨年にあった。
昨秋、ハンガリー・ブダペストで競泳の国際リーグ「インターナショナルスイミングリーグ」(ISL)が開催された。当初、本多は出場する予定ではなかったが、参加を予定していた瀬戸が競技活動を停止し欠場する代替として本多が出場することになったのである。
約1カ月にわたり13戦が実施されるこのリーグ、しかも海外の有力選手が多数参加するリーグである。コロナの影響のもと、貴重な実戦経験となった場は、強化につながり、そして「世界との差を実感できた」場となった。
3歳で水泳をはじめてから、やめたいと思ったことがないというほど好きで泳ぎ続け、早くからオリンピックを夢としていた本多にとって、大舞台への意志、そこでどうすれば戦えるかを感じ取る時間でもあった。
意識の変化は帰国後にうかがえた。リーグから帰国したあとの日本選手権、年明けて2月のジャパンオープンと優勝を果たすが、そこでは「このタイムでは」と優勝しても喜ばない姿があった。
それが「すごいうれしかった」
「表彰台に上ることを日本選手権から意識していたのでうれしい気持ちがありました」
本多はこう喜びを表している。
そしてこのようなエピソードを明かした。
「準決勝が終わった後に、『自分のレースをすれば表彰台に行ける。お前なら絶対できるから』って、(言葉を)かけていただきました」
それは瀬戸からの言葉だった。それが「すごいうれしかった」という。