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《独占撮影》“五輪直前”マラソン大迫傑30歳にカメラマンが密着6日間「大迫くんのパパとしての表情が新鮮だった」
text by
松本昇大Shota Matsumoto
photograph byShota Matsumoto
posted2021/07/01 18:40
密着取材では大迫の運転する車内で会話することも多かった
ここ何日かのフラッグスタッフは気温が30度に届くか届かないかぐらいだが、陽射しは強烈で走る時間を選ばないといけない。少し暑さが和らいだ時間から、アスリートハウス近くの見晴らしの良いジョグコースでビジュアル撮影を始めた。
長女のユウちゃんが自転車を漕いだり、ランニングをしたり協力してくれる。
「ここからあそこまではお父さんとこれぐらい離れて走ってね」とリクエストを伝える。2人は走る前から「笑顔!笑顔!」と声に出し雰囲気を盛り上げながら何度も走ってくれた。
ユウちゃんと一緒にいるときの大迫くんのパパとしての表情も新鮮だったが、何より印象的だったのは何かを“つくること”に関しての姿勢だ。カメラマンのリクエストに対しても協力的で、現役の、ましてやオリンピックという大舞台を控えるこの大切な時期に、ここまで真摯にイメージづくりに向き合える選手は他にいないように思う。
「ちょっとでも先のこと、将来の楽しいことを考えたり、“こうなったら面白いな”みたいな想像をするのは楽しいんです。考えることで練習でもポジティブになれるので。だからこそ今はSugar Eliteやその他のことも自然と出来ているのかなと思います」
撮影が終わると大迫くんはジョグで、ユウちゃんは自転車の練習をかねてそのまま2人で帰っていった。僕は2人の後ろ姿を見送ってから奥さんのあゆみさんが運転してくれる車でホテルまで送ってもらった。
大迫傑が語る「アスリート」と「ビジネス」の差
後日、Sugar Eliteについてこんなことも話してくれた。
「自分が世界を周って走ってきましたが、世界を周る中でいろんな方とお話をしてきました。そのなかで僕が感じているのは、『アスリートとしての活動』と『ビジネス』って違う面もあるけれど、根っこの部分ではすごく共通する部分があるということ。共通するのはシンプルなことですが、目標に向かっていく努力を重ねるのが大切だということ。
ただし、ビジネスは目の前の仕事だけではなく、様々な雑念やノイズの中で目標に向かってやっていかなければいけないと思うんです。その一方で、陸上競技はそういう雑念をできるだけ排除したシンプルな世界で戦っていく。特にマラソンはそうです。だからこそシンプルに大切なこと、本質的なことを教えられるのって、ビジネスマンじゃなくて僕らアスリートだと思うんです。そこに僕らの価値がある。だからこそ、Sugar Eliteで子どもたちに教えていきたいんです」
明確なビジョンがあるからこそ、それは人を動かす言葉になる。Number「走る」特集に掲載したインタビューでも答えてくれたように、大迫傑は、彼自身が考える最高のランナー=”人を巻き込めるランナー”に、誰よりも近いところにいると思う。
アリゾナでともに過ごした短くも濃い日々は、そのことを僕に教えてくれた。