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佐藤輝明「面白くなければプロじゃない」~新時代の咆哮~
posted2021/06/17 07:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Hideki Sugiyama
躍動する猛虎が巻き起こす新風の、まさにど真ん中。ありとあらゆる新人記録を塗り替えんばかりの勢いで、規格外のブレイクを遂げる令和の怪物ルーキーは、その言葉を紐解くと、思考もまた、規格外であった。
大阪湾と六甲山系の狭間に建つ阪神甲子園球場には2つの風が吹く。海から寄せるアゲンストの浜風と、山からフォローに吹き下ろす六甲おろしである。ただ、山颪は冬の季節風であるため、野球シーズンには吹かない。それゆえ虎党は、せめてもの願いを込めて、あの球団歌を唄ってきた。
奇しくも、ウイルスによってその祈りすら口ずさめなくなった2021年シーズン、強烈な追い風を吹かせるバッターが甲子園に現れた。リーグ本塁打王を争い、オールスターファン投票では12球団トップ、世の耳目を独占する佐藤輝明である。
じつは、まだ本塁打を放つ前から、彼の一挙一動は周囲を唖然とさせてきた。2月の沖縄キャンプで、噂のルーキーを初めて目にしたスタッフ一同の心境を、ヘッドコーチの井上一樹はこう表現した。
「心臓に毛が生えているというか……。普通なら新人選手は、キャッチボールでは先輩より早くグラウンドに出てくる。ミーティングでは一番に会場に入っている。自分たちはそれが当たり前だと思っていたけど、そういうところは一切なかった(笑)。まずそこで、すごい奴だなと思った」
そよぐ春風のなかを佐藤はひとりゆく。トレーニングで持久走をやらせれば、どん尻を走った。ノックで疲れれば、へたり込んだ。根性論や同調圧力とは無縁の若者に、一同は唖然としたのだ。