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ネイマールの“女性への性暴力疑惑”でナイキがスポンサー契約解消… 食い違う証言とウラ事情とは【W杯予選では2戦連発】
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byTakuya Sugyama/JMPA
posted2021/06/09 12:30
ロシアW杯のネイマール。その2年前の“疑惑”が今回のナイキとの契約破棄につながった
肝心な部分での重大な食い違いとは
ナイキの声明とネイマールのコメントには、肝心な部分で重大な食い違いがある。ナイキが「ネイマールに調査への協力を求めたが、拒絶された」としているのに対し、ネイマールは「自分を弁護する機会を与えられなかった」としている。
ネイマールの代理人でもある父親は、「これはナイキから息子への恐喝であり、謀略だ。我々が法的手段に訴えることも考える」と激怒した。さらにその後、「昨年、ナイキが色々な理由を付けてスポンサーフィーを払わなくなり、我々は契約解消を申し出た。そのことを隠すために、こんなデタラメをでっち上げたんだ」、「近年、息子が故障が多いのはナイキのシューズに問題があったからだ」などと発言をエスカレートさせている。
ナイキは企業イメージを守るために切り捨てた?
一方、ナイキが15年間続けたネイマールとのスポンサー契約を解消した背景には、会社としての事情もありそうだ。
1990年代後半以降、ナイキは商品製造を委託した東南アジアの工場で低賃金労働、劣悪な環境における長時間労働、児童労働、強制労働などが発覚して強い批判を浴びた。
社内では、2018年以降、セクハラ、パワハラに関する内部告発が相次ぎ、10人を超える幹部社員が解任されたり辞職を余儀なくされている。
最近では、中国の新疆ウイグル自治区でウイグル族を強制的に働かせているとみられる中国企業の工場から製品を輸入していると批判された。これに対し、「我々のサプライヤーは新疆ウイグル自治区から原材料を調達していない」と反論したところ、今度は中国から強烈な反発を受けている。
ナイキは人種差別や性差別やいじめに反対するCMを発表するなどして人権意識が高い会社であることをアピールしているが、自己矛盾を抱えている。だからこそ、社員から訴えのあった性暴力の容疑に適切に対応することで企業イメージを守ろうとし、主要な広告塔の1人であるネイマールを"切り捨てた"のではないか。
現時点ではナイキの女性社員が警察に被害を届け出たという情報はなく、今後、ネイマールが刑事罰を受ける可能性は高くないようだ。
とはいえ、WSJの記事がナイキの元社員並びに現社員、ナイキが契約した社外の弁護士事務所などからの証言を情報源としていることを勘案すると、ネイマール側が主張するようにこの性暴力疑惑が全くのでっち上げであるとは考えにくい。