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「なぜ大坂なおみは会見拒否を宣言したのか?」四大大会取材歴20年以上のテニス記者が考える“苦悩の正体”
posted2021/06/04 11:02
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
AFLO
「選手の心の健康が無視されている」
こう綴って、全仏オープン開幕4日前に突如勃発した大坂なおみの記者会見拒否騒動の論点は、当初とは随分違う方向へ一気に進み始めた。
“大坂なおみでいるため”のストレスが重かったのか
1回戦の勝利後、宣言通り会見を行わず1万5000ドルの罰金処分を受けた大坂は、ツイッターで「怒りは理解の欠如。人は変化を嫌がるもの」と旧態依然のシステムを真っ向から批判したが、翌日になって長文の投稿とともに棄権を表明。「想像もせず、望んでもいない状況。みんながテニスにまた集中できるように、そして私の健康を考えて棄権します」とのことだった。その中で、2018年の全米オープン優勝以降、長い間うつ状態に悩まされていたことをも告白した。
今まさに進行形で心の問題を抱えているのであれば、なぜ会見が必要なのかとか、なぜこんな義務が課されているのかとか、そんな説得を必要とする問題ではない。「メディア対応も仕事の一部」と語った多くの選手の意見もほとんど無意味だ。おそらくそんな理屈は大坂もわかっている。だからこれまで、記者会見に真摯に向き合い、難しい質問にも逃げずに答えてきたのだろう。
すっぽかしたことも、泣いて途中で退席したこともあったが、総じて大坂はメディア対応に長けた選手だった。世界中のメディアが、大坂が発する生きた言葉を聞くのが好きだったし、軽妙なやりとりを楽しんできた。そういう“大坂なおみでいるためのストレス”が今回の騒動にいたるほど重いものだったとは、想像もしていなかった。
昨年は「シャイでいることはもうやめた」と宣言
もともと内向的な性格であることはよく知られている。会見でよく言うジョークさえも「本心をはぐらかすため」「防御機能のようなもの」と語ったことがある。しかし、昨年のコロナ中断が明けてからの大坂は、「シャイでいることはもうやめた」という宣言通り、社会へ向けて勇気ある発言をし、あえて世間から注目を浴びる行動を起こした。ただでさえコロナ禍で多くの選手がストレスを抱える中、自分は適応力があるとも自負していた。私たちがそれをそのまま信じたのは、何よりテニスコートで見せるプレーと結果が大坂の変化を物語っていたからだ。