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「なぜ大坂なおみは会見拒否を宣言したのか?」四大大会取材歴20年以上のテニス記者が考える“苦悩の正体”
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byAFLO
posted2021/06/04 11:02
全豪オープンの記者会見で、記者からの質問に答える大坂なおみ
すべてがうまくいっているように見えただけなのか。人前で話す怖さも、自分の影響力の大きさを知るストレスも、得意のハードコートの上ではなんとか耐えられたが、クレーコートで勝てなくなるとそれらを抱えきれなくなったのか。
「自分を疑う人の前で話したくない」の真意
大坂の最初の会見ボイコット宣言のあと、世間から理解を得られていない状況に対して、姉のまりが耐えかねたようにソーシャルメディアに投稿した文は腑に落ちた。そこには、記者会見のたびにクレーでの成績が悪いことを指摘されてますます自信を失っていったこと、ローマでの初戦敗退で精神的な問題を抱えていたこと、全仏オープンで自信を持ってプレーするためにはそういった声を一切遮断することが最善の策と考えたことなどが綴られていた。ちなみに、この投稿はその後削除された。
大坂が最初に会見拒否の表明で説明した「何度も同じ質問をされたり、自分を不安にさせるような質問が多い。自分を疑う人の前で話したくない」というものが、それぞれ具体的に何を示していたのか、これで推測ができる。
しかし、グランドスラムのルールブックには「選手やチームのメンバーはメディアから記者会見の要望があれば、ケガや体調不良によってそれが不可能な場合を除いて、勝っても負けても棄権した場合も、設定された記者会見に出なくてはならない」とある。たとえ全仏で勝ち進むためにメディアをシャットアウトすることが欠かせないとしても、抽象的に「自分を疑うような人の前には出たくない」という主張だけでは、今のルール内で会見を回避する正当な理由とはみなされないだろう。
さらに、もし大坂が大会側へ精神的に不安定な状態を相談した上で「記者会見を行いたくない」という要望を出したとしたら、運営側もメディア側も理解と配慮を示したはずだ。ただ、それは大坂個人の問題としてのみ扱われた可能性が大きい。システムもルールも変えず、大坂が克服しなくてはならないことであり、大坂が適応しなくてはならないのだと。それまで待ちましょう、サポートはしますよと。それは多分、大坂が望む解決策ではなかった。
錦織圭が語っていた“孤独というストレス”
騒動を振り返れば、大坂が今実際に心に問題を抱えているという可能性をいち早く言葉にしたのは錦織圭だったと思う。大会前のリモート会見で錦織は言った。