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「悔しい。死ぬまで絶対に忘れない」 欧州に渡ってわずか9カ月で日本に戻った天野純は誰より“ちゃぶっている”
posted2021/05/29 17:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Getty Images
「ちゃぶる」は受け継がれている。広島弁で相手を翻弄する、遊びを入れるという意味。“初代ミスターマリノス”木村和司が2010年に古巣で指揮官に就任し、流行させた言葉である。
GW明けの横浜F・マリノス―ヴィッセル神戸戦。この日の天野純は、アンドレス・イニエスタよりもちゃぶっていた。
前半途中、マルコス・ジュニオールの負傷によってスクランブル発進すると味方のシュートにつなげる好パスあり、好クロスあり。彼のアクションから何か起こりそうな予感が漂っていた。
前半41分、ハーフウェーライン付近でボールを受け取るや否や、左サイドのスペースにサイドチェンジのボールを送ってオウンゴールを誘発。翻弄という点では後半早々、左サイドで相手をダブルタッチでかわし、目の前に3人いながらも質のいいアーリークロスを入れたシーンがあった。もし木村が観ていたら唸ったに違いない。終盤には味方のシュートが弾かれたところを押し込んで今季初ゴールをマークしている。
今あらためて感じているのは
F・マリノス育成組織出身の29歳は1年前、志半ばで日本に戻ってきた。木村や中村俊輔らが身につけた10番を受け継いだ'19年シーズン夏、「欧州で活躍したい」という夢を実現するために苦悩の末、ベルギー2部ロケレンに渡った。しかしクラブが裁判所から破産宣告を受けたため、わずか9カ月でのレンタルバックとなってしまった。コロナ禍もあって夢へのチャレンジを断念せざるを得なかった。
彼が語ってくれたことがある。
「心にあるのは悔しいという思い。死ぬまで絶対に忘れないと思います。今あらためて感じているのはサッカーを楽しむことが重要なんじゃないか、と。対戦相手も含めて一番楽しそうにやっている選手でいたい。そうすることで、いいプレーって出てくると思いますから」
悔しい気持ちを胸に刻み、楽しむ気持ちを忘れず。
激しく体をぶつけるファイトぶりはベルギーでバージョンアップしたもの。荒々しさを意味する古語の「ちはやぶる」も兼ね備える。
ちゃぶるも、ちはやぶるも。
今のアマジュンには二つの魅力が詰まっている。