猛牛のささやきBACK NUMBER
鳥谷敬から「守護神してるんですねぇ(笑)」能見篤史41歳、オリックスでの兼任コーチは“大変じゃない”
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph bySankei Shimbun
posted2021/05/22 06:00
コーチ兼任選手としてオリックスに加入した能見篤史(41歳)。苦しいブルペン事情を支える活躍を見せている
能見がウインドブレーカーを脱ぎ、投球練習を始めると、ブルペン周辺の観客がいっせいにスマートフォンを構えた。
杉本裕太郎の犠牲フライで4-2とリードを2点に広げ、8回裏の攻撃が終了すると、K-鈴木が、まるで露払いをするように、サッとブルペンの扉を開けにいく。その場にいた投手やブルペン捕手たちが、拍手で能見を9回のマウンドへ送り出した。
自分の準備のことだけを考え、集中できた昨年までとは違う。試合終盤の重圧のかかるマウンドを任されながら、その直前までコーチ業もこなしているのだ。疲れていても、試合前後のコーチミーティングにも参加する。
しかし、「大変ですね」「忙しいでしょう」と言われるたびに、能見は「全然そんなことないですよ」とあっけらかんと言う。タフだ。頭に白いものは増えたが、表情も、体のキレも若々しい。
鳥谷との初対決「あ、来たな」
5月18日のロッテ戦では、鳥谷との初対決が実現した。この日は1点リードの8回表に能見がマウンドに上がり、2死一塁の場面で代打・鳥谷を迎えた。
2人とも、表情は変えない。緊迫感がビシビシと伝わってくる。
144キロのストレート2球で追い込むと、3球目、140キロのフォークに鳥谷のバットが空を切る。能見はグラブをポンと叩いた。
試合後、古巣で苦楽を共にした戦友との対戦を振り返った。
「あ、来たな、と思って。ずっとね、対戦はしたいなと思ってたんですけど、もっと楽な場面で対戦したかったですね(笑)。やっぱり状況も1点差ですし、楽しんでる余裕はなかったな、というところなので、まあ、思いは片隅に置きつつ、1バッターとして……」
たった3球、しかし濃密な時間だった。京セラドームが無観客試合だったことが残念でならない。だが2人の真剣勝負はこの先も見られるだろう。
5月25日には交流戦が始まり、6月1日からは、阪神との3連戦が甲子園で予定されている。かつてエースとしてファンを魅了したマウンドに、再び能見が立つ姿を、多くの人が待っている。
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