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「これやったら戦いようがあるな…」 中谷正義が“ウクライナの怪物”ロマチェンコ戦に誓う“余裕の勝利”
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byKiichi Matsumoto
posted2021/05/29 17:01
中谷正義は“ウクライナの怪物”ロマチェンコ戦を前にこの試合への思いを語った
「今辞めるのも、5年後に辞めるのも変わらんで」
さあ、気持ちを切り替えて第2の人生を歩み始めよう。そう考えていた矢先の昨年11月、元WBA世界スーパー・ウェルター級暫定王者で、海外のリングでも活躍した石田順裕さん(現寝屋川石田ジム会長)を後援者から紹介される。
大阪・興国高、近畿大の先輩でもある石田さんとの食事会は思わぬ転機となった。
「石田さんに『今辞めるのも、ジムを移籍して3年後、5年後に辞めるのも変わらんで』と言われたんです。自分は31歳で、社会人として出遅れてるかもしれないけど、長い目で見たら今も5年後もたいして変わらない。だったら成功するかしないか分からないけど、ボクシングにかけたほうが将来的にも自分のためになるんじゃないかと。そこからですね、『もう1回やってもええんかな』と思い始めたのは」
中谷はその場ですぐに決断したつもりはなかったが、「ここで辞めるのはもったいない」と感じた周囲の反応は素早かった。あれよあれよと話は進み、東京の名門、帝拳ジムに移籍して現役を続行するレールが敷かれた。帝拳は海外と最も太いパイプを持つジムであり、事実、中谷の復帰戦となったベルデホとの試合はラスベガスにセットされた。
「アメリカで強い選手、ベルデホとやらせてもらえたというのはありがたかったです。ライト級の自分は日本で強さを証明しても世界タイトルにはつながらんというのを実感してましたから。だから今回も本当にありがたいと思っています」
「これやったら戦いようがあるな」
さて、ロマチェンコ戦だ。おそらく海外メディアの予想はロマチェンコ有利に大きく傾くだろう。しかし、中谷に動じる様子は微塵もない。恐れも気負いもなく、ただ目の前の相手を冷静に分析する姿がそこにはあった。
「ロマチェンコはフェザー級、スーパー・フェザー級のときは神がかった強さがあって、『この選手にどうやったら勝てるんやろ』と思って見てました。でも、ライト級に上げて、ここ数試合を見る限りは『これやったら戦いようがあるな』と。今回の試合が決まる前からそう思ってました」
中谷の武器はライト級では大柄な182センチという身長だ。下の階級から上げてきた身長170センチ程度のロマチェンコと比べると、体格面で大きく優位に立つ。