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橋本大輝が“内村航平クラス”の演技に急成長? 世界が驚く19歳は「1番になることしか考えていない」
posted2021/05/16 06:00
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
KYODO
東京五輪のニューヒーロー候補がコロナ禍の冬に大幅な進化を遂げ、19歳にして日本の頂点に立った。体操の橋本大輝(順天堂大学2年)が、東京五輪の代表選考会を兼ねて4月に開催された全日本個人総合選手権で予選7位からの大逆転を演じ、初優勝を飾った。
「優勝はほぼ不可能だったけど、諦められなかった。決勝だけでもトップの点を取って先につなげようと思った」。不屈のメンタルで見事に立て直した。
決勝では予選で2度落下した記憶が残る1種目めのあん馬で、バランスを崩しながらも通し切り、波に乗った。2種目めのつり輪では予選より1点上乗せし、3種目めの跳馬では超高難度の「ヨネクラ」を成功させて15点台に突入。残る平行棒、鉄棒、ゆかでも15点台を連発した。6種目中4種目15点台は、かつての内村航平クラスである。
決勝のみの得点(88.532点)に大きな価値がある。'19年世界選手権金メダルのニキータ・ナゴルニー(ロシア)が出した88.772点に肉薄したからだ。さらに際立っているのは、演技の難度を示すDスコアの合計点。昨年12月の全日本個人総合選手権で35.8点だったところから、わずか4カ月で37.1点まで上げた。これはほぼ世界最高レベル。水鳥寿思男子強化本部長も「想定以上だ」と驚きを隠せない。
「五輪金メダリストになりたいと思っている」
他の選手が真似をしたくてもできない特長を持っているのが強みだ。初出場だった'19年世界選手権でも高く評価された、体の線の美しさだ。加えて、順大の原田睦巳監督が「負けることが大嫌いで、1番になることしか考えていない」と評する強い向上心があり、繰り返し何度でも練習できる無尽蔵の体力もある。
今後は全日本個人総合選手権の得点を持ち越して行なうNHK杯(5月)で上位2位以内になれば、4枠ある東京五輪の団体メンバー入りと個人総合出場が決まる。
「五輪の金メダルを目指していないと代表にも入れない。自分の中では90点を狙って、五輪金メダリストになりたいと思っている」
'19年世界選手権で種目別決勝に残ったように、難度を上げようとして手こずっているあん馬も、決して苦手なわけではない。強気の19歳の目には世界の頂点への道が見えている。