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ダルビッシュと相棒カラティニ「お互いにすごく信頼できています」相思相愛バッテリーが制した“4分間の心理戦”
posted2021/05/08 17:04
text by
木崎英夫Hideo Kizaki
photograph by
Getty Images
ダルビッシュ有にいつもの切れはなかった。
「初回からずっと体も重くて、どうやって投げていこうかと……」
5月5日(日本時間6日)の本拠地パイレーツ戦で勝敗は付かず、開幕戦以来の6回未到達となった。それでもチームに勝機を呼び込む2失点8奪三振の粘投。それを支えたのが「お互いにすごく信頼できています」と話すビクター・カラティニ捕手だ。3勝目を挙げた4月30日のジャイアンツ戦は、2人の関係性が色濃く出ていた。
地区首位を行く相手との戦いは、いくつもの要素が戦局に絡み合った。その中で、ダルビッシュとカラティニがスリリングな心理戦を制したのは6回だった。
「自分たちでいろいろやりました」
ジャイアンツの3番バスター・ポージーを仕留めた直後の1死二塁の場面。4番ブランドン・ベルトを左打席に迎えると、パドレスの内野陣は、三塁のマニー・マチャドが一、二塁間の芝深くまで下がる極端な右寄りのシフトを敷いた。この隊形で、左翼線二塁打を放っていたマイク・トークマン(ジャイアンツ)は左へ右へと小刻みに動く不自然なリードを取っていた。厄介な局面で、パドレスのバッテリーは高い「危機管理」能力を発揮する。
「セカンドにランナーがいましたから、サインを盗まれないようにその都度その都度で、自分たちでいろいろやりました」
初球のファウル後、“確信”したカラティニは、2球目のサインを途中でやめタイムを要求。これを合図に、ダルビッシュはボールを握った右手でブロックサインを送り始動。70マイル(約112キロ)のカーブで2ストライクに追い込むと、今度は相棒を呼び寄せた。そして、仕切り直した3球目をノーサインで投じ、内角低めに落とした81マイル(約130キロ)のナックルカーブで10個目の三振を空振りで奪った。走者からの情報の信頼度は揺らぎ、続く5番アレックス・ディカーソンを内から外角高めに流れるフロントドアのツーシームで見逃し三振に仕留めると、ダルビッシュは雄叫びを上げた。
背負った走者に集中力を乱されながらも、圧巻の3者連続三振で切り抜けたダルビッシュとカラティニ。実は、この前に、洞察の「リスク回避」を図っていた。