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那須川天心はなぜリスクをとってボクシング転向するのか… “井上尚弥の存在”とキックのルール変更が背景に?
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph bySusumu Nagao
posted2021/04/22 17:01
キックボクシング界の神童と呼ばれる那須川天心はRISEで行われた志朗戦で勝利をあげ、武尊戦への機運が高まっている
“モンスター”井上尚弥が天心に与えた影響の大きさ
確かに今のキックボクシングを見ていると、多くの選手がボクシングのような構えで、スピーディーに脚を動かしている。攻撃におけるパンチの重要性も増しているように思える。キックボクシングがかなりボクシング的になっているという指摘は説得力を感じさせる。
それを裏付けるのが、逆もまた然りのパターンだ。かつてはキックからボクシングへの転向だけでなく、ボクシングからキックへの転向も失敗に終わるのが常だった。ところが最近は、プロボクシングで日本ランカーだった佐々木洵樹がキックボクシングに転向し、Krushという団体でチャンピオンに輝いた。佐々木に空手のバックボーンがあるとはいえ、彼の活躍はキックとボクシングの差異が少なくなった証の1つのように思える。
さて、キックのルールの変化が那須川のような選手を生み出したことは分かった。では、転向のきっかけは何なのだろう。山田トレーナーが「一番デカイ」と口にしたのは井上尚弥の存在だ。そう、バンタム級で主要4団体のうち2団体のベルトを持つ、あの“モンスター”井上である。
「『自分もああいうふうになれる』って感じたと思う」
「やっぱり井上選手の存在は大きいですよ。ラスベガスでメインを張って、軽量級の日本人選手でありながらアメリカのボクシング界でリスペクトされている。もちろんファイトマネーも高額です。ああいう選手は今までいなかった。井上選手って天心と体格もそんなに変わらない。だから天心は井上選手を見て『自分もああなりたい。ああいうふうになれる』って感じたと思うんですよ」
かつてボクシングの世界チャンピオンはたとえ国内で有名になっても海外ではあまり知られない存在であることが多かった。だが現在はボクシング界もグローバル化が進み、インターネットを通じて情報は世界中に流れるようになった。海外で試合をする選手も増えた。その中で、井上は今までの日本人世界チャンピオンがなかなか手にできなかった、「世界で認められ、世界の中心で戦う」というポジションに到達したのだ。