濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
女優でレスラー・なつぽいが“白いベルト”中野たむ戦で見せた「呪い」の感情 泣き顔で連続ビンタ、水かけ、顔面蹴り...
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byMasashi Hara
posted2021/04/08 11:00
なつぽい(右)はかつてタッグを組んだこともある中野たむへの複雑な思いを抱えながら試合に挑んだ
たむを殴り続けるうち、なつぽいは泣き顔に
試合はやはり、ドロドロしたものになった。バックスピンキックやダイビング・ボディアタックなど華のある技を使いながらも随所に“この野郎”という気持ちが出る。蹴りは的確に顔面を狙い、張り手を叩き込む。なつぽいがペットボトルの水を顔にぶちまけて精神的にいたぶる場面もあった。同じことをたむもやり返した。
勝負どころで、なつぽいは何度も何度もたむの顔を張った。おそらくそれが、最も気持ちを込めることのできる攻撃だったのだ。たむはひたすら受ける。殴り続けるうちに、なつぽいは泣き顔になっていた。挑戦者の感情が沸点に達したところで反撃に転じたたむが、必殺技トワイライト・ドリーム(変形ジャーマンスープレックス)で初防衛を決めた。
「やっぱりプロレスラーはリングの上でしか生きられない生き物だなって。私はふだんコミュ障で自分の気持ちがうまく伝えられない。でもリングの上ではありのまま生きられるんです」
なつぽいの“呪い”も感じた。実力に関して言えば、認めていないわけがなかった。
「凄い呪ってきたでしょ(笑)。試合だけじゃなく会見から。夢に出ましたよ。そういう怨念というか情念、本当の執念をぶつけてきてくれたのが嬉しかった。
なっちゃんはアクトレスの頃からずっと越えられない壁でした。強くて速くてなんでもできて。凄いなって思います。だから私はアクトレスを抜けて、自分の力で這い上がろうとしてきた。だからここまでこれたのはなっちゃんのおかげでもあります」
「たむのこと、まだ嫌い?」「大っ嫌い」
たむは対戦相手に向かって3つの呼び方を使った。現在形の挑戦者としては「なつぽい」、過去の関係性を強調する時は「なっちゃん」。だが夢中になって「なつみ!」と叫んでいる時もあった。「素になると出ちゃいますね」とたむ。そうした単純ではない思いも“呪い”という言葉には含まれているのだろう。
敗れたなつぽいは、インタビュースペースで「スッキリしました」と笑顔を見せた。
「たむにも言われたみたいに、私は昔からいつも笑顔で、元気でいなきゃいけないって思ってました。でも負けず嫌いが噴火しそうになる時もある。全部さらけ出せるたむちゃんがカッコいいと思ってました。ある意味、たむのおかげで自分の裏も表も出せるようになりました」
試合後のリング上、たむはなつぽいに「たむのこと、まだ嫌い?」と聞いた。答えは「大っ嫌い」だった。
「たむちゃんのせいで、私が性格悪いのバレちゃったじゃん」